· 

水分活性と食品の保存性


 食品の保存性を向上させる方法として、食品を塩漬けや砂糖漬けにする方法があります。

 生の魚はすぐに腐敗してしまいますが、魚を開き、塩水につけて乾燥させれば、しっとりとした状態は残しながらも保存性が向上します。また、練ようかんやマロングラッセのように、糖液で煮詰めることで、長い保存性を確保するものもあります。これらの保存性が向上する要因が水分活性です。

 

 食品の栄養成分表に示されている水分は、食品を加熱乾燥したり、溶剤で抽出したりして測定する、食品が持つ全ての水分の値です。この食品中の水分には、糖や塩分、たんぱく質などに取り込まれて存在する結合水と、自由に食品から出入りすることができる自由水があります。微生物が利用できる水分は自由水のみで、結合水は利用できません。ですので、食品に塩分や糖分を添加して、結合水の割合を高くすると、食品の腐敗につながる微生物の繁殖を抑えることができるというわけです。

 

 水分活性は、25℃の環境で、密閉した容器に純水を入れた時に、容器に充満する水蒸気圧を1.00とし、同様に食品の水蒸気圧を測定することで、食品中の自由水の存在を数値化しています。食品の劣化につながる、微生物が生育できる水分活性の下限値は、細菌で0.90、酵母で0.88、カビで0.80といわれています。

 水分活性は食品の保存性に関する一つのパラメーターであり、水分活性を下げるため、甘みの少ない糖(ソルビトールやトレハロース)などが使用され、品質保持剤として添加物表示されています。

 

 確かに、ボツリヌス菌を含む食中毒菌は、0.94以下の水分活性では増殖できません。ですが、好塩菌である黄色ブドウ球菌は0.86でも増殖できますし、乾性カビの最下限値は0.60までは大丈夫です。

 水分活性が低いことは食品の安定した保存性に寄与しますが、実際の食品流通の場では、外気の湿度や、温度変化による結露が発生して水分活性を上昇させます。このため、水分活性の上昇を防ぐための密封包装を含め、水分活性だけでは抑えきれない微生物を制御するための、包装後の加熱殺菌やpH調整、アルコール製剤や脱酸素剤などの品質保持剤を併せて使用して、保存期間の安全が考えられています。

 

 以前、フランスから輸入した、ボンボンチョコレートの特定の種類に、カビの発生が確認されました。

 ボンボンチョコレートには、ガナッシュに生クリームや果実ピューレなどを含む含水タイプものと、ナッツペーストや油脂のクリームを使用した無水タイプのものがあります。含水タイプの水分活性は0.8程度、無水タイプは0.2程度です。

 その時カビが発生したのは、もちろん含水タイプのもので、殺菌されていない香辛料が使用されていました。冷凍で空輸され、解凍時に結露した部分に、香辛料に含まれていたカビが繁殖したのです。日本製のガナッシュにはカビを抑えるために少量の洋酒が使われることが多いのですが、フランスでは酒類を使用しないことが多く、このチョコレートにも使用されていませんでした。

 

 同じレシピで日本でチョコレートを作ったのですが、殺菌していない香辛料を使ったものにはカビが発生し、殺菌した香辛料を使用した製品にはカビは発生しませんでした。輸送中の結露がなくても、日本の湿度ではカビが発生し、フランスの環境では大丈夫だったのです。

 

 

 今年の夏は大雨や台風の襲来が多く、湿度が高い日が続きました。そのせいか、チョコレートや羊羹、乾麺、スルメなど、いずれも水分活性の低い食品で、カビによる回収が見られました。

 湿度の高い環境では、少しの温度差でも結露につながります。食品が吸湿し水分活性が上昇してしまわないよう注意しましょう。常温保管の食品でも、開封後の食品は冷蔵庫で保管し、常温に出す場合は、カビが生える前に食べることが重要です。

コメントをお書きください

コメント: 3
  • #1

    匿名希望。 (金曜日, 31 12月 2021 14:17)

    結露やカビを予防するためにも消費・賞味期限を守りなるべく真空パックの状態でこそありますよう。

  • #2

    川満弘子 (火曜日, 26 9月 2023 10:28)

    弊社では個包装のもちを製造しているのですが包装後ク-ラ-のある部屋で保管するのですが
    翌日には袋内に結露がみられます。改善したいのですがどうすれば良いのかわかりません。
    アドバイス頂ければ幸いです。

  • #3

    渡邊あおい (火曜日, 26 9月 2023 22:41)

    お餅の製造は経験がありませんが、餅製品は水分活性の高い食品ですよね。
     包装内の結露については、品温と室温の関係で発生するものですので、なるべく低い品温で包装するほうが良いと思います。しかしながら、包装内にある程度の水分がないと、お餅の表面の老化にも関係するでしょう。
     もちろん脱酸素剤を封入されていると思われますし、結露による品質劣化がないのなら、注意表示で消費者に理解していただく方法もあるかもしれません。
     以前、焼き菓子を包装後に冷凍保管し、出荷時に30度以上の環境で置くことで、包装内の結露対策をしていたことがありました。お餅で同様の効果が期待できるかはわかりませんが、包装内の脱酸素状態が確保された後で、環境温度をあげて水分を餅に再吸収させることはできないでしょうか。
     ですがお餅は焼き菓子とは水分活性も生地の素性も異なります。もし試される場合は安全性の確認が必要です。保存試験など十分な検証をお願いします。