レッスン2 対象となる製品を決める


 それでは作業を始めましょう。 

 まず最初に、取り組む食品を決めます。

 あまり時間に余裕が取れない事業所では、一度に大体の形を整えるためにも、いろいろな原材料や工程を含む、代表的な製品やメニューを選択するといいと思います。

 

 本来は、一般的原則の方に取り組んで、その中でHACCPを構築します。

 今回は、より取り組みやすくするために、一つのメニューや製品について、HACCPの構築をする中で、食中毒や自主回収につながる危害防止を考えていきます。

 一般的原則の要求事項や、HACCP構築手順や原則については、「HACCP学習室」のHACCP基礎講座でご確認ください。

 

 ウェブ塾では、「唐揚げ定食」を例に説明していきます。皆さんも何か製品を一つ決め、例を参考に考えていきましょう。

商品説明書を作ろう

 商品説明書は、お客様から品質に関するご質問があった際に、従業員の全員が理解しておくべき内容をまとめたものです。

 取引先や保健所の監査の際にも、必ず提出を求められる資料ですので、この機会に、全てのメニューや製品について、例を参考に作成しておきましょう。

 内容について]

  1. メニューの名称及び種類:ここではメニュー名「唐揚げ定食」ですが、包装品では、品名と名称になります。
  2. 原材料に関する事項:メニューや表示に記載している内容から、特長表示の内容(例えば、国産や神戸牛、有機野菜など)についても明記してください。
  3. 添加物とその名称:原材料に含まれるもので、キャリーオーバー以外のものと、製造の際に加えるものを記載します。キャリーオーバーとは、醤油の保存料や缶詰の酸化防止剤のように、その原料を使用して製造した製品には、効果を示さない、表示が不要な添加物です。
  4. アレルギー物質:メニューに含まれている全てのアレルゲンを書き出します。アレルギー反応は、ごく少量の混入で発症します。相互汚染が排除できない場合は、汚染の可能性があるアレルゲンも併記しておいてください。
  5. 製造工程と製品の特性:簡単な製造工程を記載し、提供の方法も明記しておきましょう。
  6. 製品の品質基準:製品の求められる品質についてまとめましょう。食品によっては、食品衛生法で品質が規定されているものもありますので、確認してください。
  7. 保管基準:ここでは提供するまでの温度基準ですが、包装品の場合は、保存条件と期限についてになります。
  8. 提供方法:ここでは店舗での販売ですが、包装品ではどのような包材、保存剤を使用するかを記載します。
  9. 喫食または利用方法:使用方法などを記載します。
  10. 喫食対象消費者:特定保健用食品など、特に使用者を限定したものの場合、細かい品質基準が定められていますので確認しましょう。

 

 商品説明書を作成するためには、使用する原材料の詳しい情報が必要です。

 原材料メーカーから原材料規格書や原材料の商品説明書を入手して確認しましょう。

 

 原材料の安全性について、その製造者が信頼できるかを確認する必要があります。原材料規格書や商品説明書を提出ができるかが、一つの判断基準になります。

 提出してもらう際には、記入間違いがないことを、印刷物に社印を捺印してもらうことで、保証してもらいましょう。

 

 また、包装食品には栄養表示が義務になりましたので、原材料の栄養成分情報が必要です。

 表示や栄養価の作成には、書面とともにエクセルなどの表計算ファイルで提出してもらうと便利です。

 内容が変更になった場合は、すぐに再提出することと、受入時の品質不良品は返品となることは、納入先と申し合わせておきましょう。

 

 食品の表示に関しては、景品表示法や食品衛生法で、表示基準が決められているため、違反があると自主回収の指導につながります。

 自主回収は企業のイメージを下げ、損失も発生するため、企業にとっての危害と言えます。そのような事態を防ぐためにも、説明書を作成する際に次の項目を確認してください。

  • 使用されている添加物に使用基準違反はないか
  • 表示した原材料の原産地やグレードに間違いないか
  • 製造する場所に必要な営業許可があり期限内か
  • 表示の中に優良誤認や原材料の不当表示はないか
  • 食品衛生法で定められた工程管理は守られているか
  • 微生物などの品質基準は確認できているか

 これらの項目は、適切に行われていることを証明する必要があります。それぞれに確認できる資料を揃えておきましょう。

 原材料に関することは、原材料規格書や納品伝票などを保管することで大丈夫です。

  景表法に関する表示では、「たっぷり」や「自家製」、「手作り」などの表示についても説明できるように、表示の根拠やマニュアル、レシピなどを保管しておきましょう。

 

  その他、消費者庁のホームページに詳しいQ&Aが掲載されていますので確認してみてください。

消費者庁 食品表示に関するQ&A

http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/qa/processed_foods_05/#a23 

メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について

http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/140328premiums_5.pdf 

 飲食店で特に注意していただきたいことがあります。

 生肉や、十分な加熱をしないで鳥獣肉や内臓を提供する、メニューがある場合のお願いです。

 

 現在、生食用食肉として許可されているのは、「生食用牛肉(内臓を除く)」のみで、これを提供する施設にも細かい取扱い基準が決められており、保健所への届出が必要です。

 鶏肉や豚肉は生食用は流通していないため、販売しているものは全て加熱用です。

 

 鶏肉は高確率でカンピロバクターを保有しており、「とりわさ」「たたき」などの生肉メニューで、今も多数の食中毒が発生しています。特に、小さい子供やお年寄りでは、ギランバレー症候群により重症化することもあります。

 豚肉にはE型肝炎ウイルスや、トキソプラズマが含まれていることが知られています。

 牛肉でも、加熱用の牛肉を使用してユッケやさしみを提供した結果、O157食中毒が発生し、死亡事故につながったケースもあり、生肉は大変危険な食品なのです。

 

 大きい危険をおかしてまで、生肉や、不十分な加熱の肉や内臓を提供することは、企業として正しい選択ではないと私は思います。もちろん、生肉を提供するためのHACCPは、危害を抑える方法がないため作れません。

 この機会に、生肉メニューの提供をやめ、誰もが安心して食べられるメニューへの変更を検討ください。

 真空パックで袋詰めした食品を常温で販売しているメーカーの方に確認していただきたいことがあります。

 pH4.6、水分活性0.94を超える食品では、中心部が、F値=4以上の殺菌(120℃4分以上の殺菌)を実施していますか。

 

 ボツリヌス菌は、命に関わる重篤な症状につながる猛毒の神経毒を作ることが特徴です。今までにも、「辛子蓮根」や「あんばっとう」という製品で、重大な食中毒事故を起こしています。

 

 この菌は、酸性の食品や、水分活性が低い食品では生育できませんが、この環境が少しでも崩れると、冷暗所の環境でも生育し毒素を生成します。特に、真空包装して不十分に加熱された、酸素分圧の低い状態で活発に増殖するのです。

 

 中心部が120℃4分の加熱殺菌を行うためには、特別の装置が必要で、確実に実施できているかをモニタリングすることが必要です。そして、殺菌後の製品の保管検査や、包装の圧着状態の確認も必要になります。

 

 今まで、事故なく販売できてきた場合でも、たまたま原材料にボツリヌス菌が含まれていなかっただけのことです。ボツリヌスの毒素は、兵器にも使用されるほどの猛毒です。重大な食品事故を防ぐためにも、製品の物性および、殺菌条件の確認をお願いします

 

詳しい情報は、厚生労働省のサイトまで→