これから取り組むHACCPについて、簡単な例をあげながらご説明していきます。
食品を提供するという事は、一つ間違えば、食中毒や危険異物の混入でお客様の健康被害を引き起こしかねない、多くの危害を含んでいます。
そのため、製造や提供にたずさわる人には、特別な注意が必要であり、衛生的なルールを守る必要があります。
ここでは、日々、お客様に喜んでいただける、安心安全な食品をつくるため、私たちにどんな注意が必要なのかを考えていきましょう。
これから始めるHACCPは、食品事故を回避するための衛生管理システムです。では、事故が起きるのはどんな時か、道で転んだ時の例で考えてみましょう。
転んだ人は思います。「これまで転んだことなんかないのに。まさか転ぶなんて考えてもいなかった!」と。
転んだ原因は、たまたま道に石が落ちていたんです。しかも、この道は普段は通らない道でした。今日は時間に遅れそうだったので近道をしたんです。
このように、たまたまの偶然が重なって事故は起きます。
でも、考えてみると、「いつもは転ばない」と言うのも、ラッキーなたまたまの偶然が重なった結果というだけなのです。
一度事故が起こると、たまたま転んだだけなのに、周りは色々と詮索します。
不注意な性格だと誤解を受けて、すっかり信用を無くしてしまう事もあるでしょう。
そんな時に、
「だって、あの時は不運だっただけだし、もう転ばないよ。あれはたまたまだったんだから…」
などと、反省も改善もせずにいると、いつかまた、たまたま転んでしまうかもしれません。
大切なお仕事も、そんな信頼できない人には、任せることはできないと考えられても仕方ありません。
そこで、自分がなぜ転んだのか、原因を分析してみます。
良くなかったところが見つかれば、それに一つずつ対策を考え、対策を実施することで、今後は転ばないように改善することができます。
もし、また転んでしまった場合は、再発の原因を考え、新たな対策を実施して改善を続ける。そうすることで、さらに転びにくい人になっていくことでしょう。
実施したことの記録をとり、効果を明確にすることは、周りの人からのあなたの高評価につながります。
こうやって、どんどん改善を積み上げて、それを証明することで、たまたまではない安全を手にいれることが、HACCPの基本的な考え方なのです。
今度は、衛生管理に取り組むあなたを、ドラゴンから国を守る騎士に例えてみましょう。
姫様や国(大切なお客様や会社の利益)を守るため、あなたは騎士として、恐るべきドラゴン(事故・クレーム)と戦います。騎士の武器は愛馬(マニュアル)、盾(品質基準)、剣(検査結果・記録)です。
そして、騎士に必要なのは、強い意志と正義感!
でも、あなた一人ではダメです。共に戦う国の戦士が、全員が同じ気持ちで協力しなければ、ドラゴンは倒せません。
なぜなら、どんなにあなた一人がが頑張っても、たった一人の油断が大きな失策につながってしまう恐れがあるからです。
危害と戦うときに、大切なことは何でしょう。
まずは、作業する環境を衛生的に整えること。
食品や物の適切な置き場を決め、清掃して食品が危険な汚染にさらされないようにしなければいけません。
次に、その食品や工程で考えられる危害を洗い出し、危険性をおさえ込む方法をルール化します。
その上で、重大な危害には、確実に防止できる方法と基準を決め、マニュアルを作って実施します。
実施した内容は記録を取り、本当に安全かを検証します。
新たな問題が発生した場合は、新しいルールでやっつけるのです。
食品を取り巻く危害を未然に防ぐ為、コーデックス委員会では、HACCPの12手順7原則を決めています。
まず、12手順の最初の項目は、HACCPのチームを編成することです。
色々な立場の人が活動に参加することで、違う立場から意見を出し合い、最善の方法を検討することができます。
一人ではできないことも、みんなの力をあわせると、大きい成果を成し遂げることができるのです。
HACCPチームには、製造に携わる部門だけでなく、製品の開発や企画、営業や出荷など、全ての部門から、それぞれの業務に専門的知識を持つ人の参加を求めましょう。
それでは、食品を取り扱う場には、どんな危害があるのでしょうか。
まず、病原菌やウイルス、寄生虫などの生物的危害です。食品が汚染されることで、食中毒などの重篤な症状を引き起こします。
次に、ガラスのかけらや硬いプラスチック、ネジや金属片など、食品に危険な異物が入っていて、口やのどに傷を負うという、物理的な危害があります。
そして、殺菌剤の誤使用による化学物質中毒や、アレルギー物質のアナフラキシーショックなどにつながる、化学的危害も時々発生しています。
どれも最悪、重篤な症状につながる恐れがありますが、製造現場では日常的に発生し得るものばかりです。
それでは、これらの危害は、どうしたら防げるのでしょうか。
コーデックス委員会の提唱する「食品衛生の一般的原則の規範」では、左にあげたそれぞれの項目について、適切な状態か確認し、ルールを設けて管理することを求めています。
この中で求められている内容は、基本的なものであり、日頃当たり前に実施している内容がほとんどです。
今まで、特に大きい事故もなく、食品を製造している施設なら、なんらかのルールはすでにあるはずです。
これらの項目一つ一つにつき。今まであるルールをもとに、自社の製品に考えられる危害について、より安全安心な食品の製造を目指し、ルールを決めていけば良いのです。
この「HACCPウェブ塾」での最終的な目的は、この取り組みの中で、従業員全員が、製造工程において何が危害になるかを理解し、ルールを守り、各自が正しく行動できるようになることです。
それにより、事故やクレームを防ぎ、顧客の信頼を得て、品質で競争力を獲得できるようになります。
そのために、わかりやすい作業マニュアルや、食品取り扱いのルールを作り、記録をとって確認します。
何か異常や不都合が発生したら、その都度上司に報告し、適切な処置をとることで、消費者の安全を守り、事業所や企業を守ることができます。
HACCPに取り組むことは、お客様のためでもあり、自分たちを守るためでもあるのです。