レッスン8 ルールや教育資料を作る


 ここまで食品の危害防止について、いろいろなルールを決めてきました。

 ルールは食品を取り扱う全員が理解し、守らなければいけないものです。でも入社時に一気に教えてもらっても、全てを理解して、実施し守り続けていくのは難しいことです。

 そこでここでは、全員に配布する、自社独自の衛生ルールをまとめた小冊子を手作り作成する方法をご提案します。

 これを作っておけば、新入社員受け入れ時にも大切なルールを漏らさず伝えることができ、ページごとに掲示して繰り返し周知徹底することができます。それだけでなく外部監査時にも、自社のルールを説明し、自社製品の安全管理を理解していただけるという大きいメリットがあります。

 

 ここでおすすめしているルールブックは、項目ごとに内容を集約し、わかりやすい表現で、簡単に読める文章で、気軽に全体を学習できることがポイントです。

 入社してきた従業員が、毎日覚えることが多く、日々パニックの状態のなか、膨大な書類を渡されても、大切なことを言ってもらっても、すぐ忘れてしまいます。各自でノートを作って記入させるところも多いのですが、口述筆記で慌てて書いたものは後で見直した時に役に立たないことが多く、どこに書いたかわからなくなって、誤解して理解される危険があるのです。

 

 会社として正式なルールブックを作ることで、言った言わないのトラブルを防ぐことができます。それに、大切なことをいつでも読み返して確認することもできるところが、文書化しておくことの最大のメリットです。

 私は食品衛生だけでなく、労務管理や労働安全の内容も含めて色々な守るべきルールを掲載し、多様な監査に対応できるよう、「安全衛生マニュアル」という名称をあえて使用しています。皆さんの事業所でも、自社に合わせた内容で作成することをお勧めします。

 

 BASEサイトで安全衛生マニュアルのパワーポイントファイルを販売していますので、こちらを使用していただくと変更部分を更新するだけで自社オリジナルを簡単に作っていただけます。(販売ファイルに含まれていない内容については作成をお手伝いいたしますので気軽にお声掛けください)

 作ったマニュアルはプリンターで小冊子印刷で出力し、中央をテープのりで張り合わせると小冊子にできます。

 ぜひ作成して見てください。

 

 それでは、ッスン5で、「その他の危害」に分類された危害要因ついて、コーデックスの一般的原則の要求事項をふまえて、適切なルールを考えていきましょう。

 

 ここでは、従業員全員が守るべきルールを、「安全衛生マニュアル」という教育用小冊子の形でご紹介していきます。

 

 今までこのような小冊子を手作りで配布して、社員教育の資料としてきました。監査に来られた取引先の方や、保健所の方に、随分ご好評いただき、従業員にも好評でした。

 HACCPではシステムの検証が必要ですので、これまでのクレームや事故の改善内容を踏まえて、内容は年1回更新し、版を重ねていくことをお勧めします。

  

 今回は、小規模の食品製造業や、飲食店で使用していただけるような、一般的な内容を提案しています。それぞれの項目について、ブログで紹介しているものには、リンクをつけていますので、ご参照ください。

 

 教育すべき内容は、取り扱う製品や製造環境に応じて違ってくると思いますので、一例として参考にしていただき、皆さんの営業に適した、安全衛生マニュアルを作成していただければ幸いです。

 先ず初めに、「品質方針」を掲載しています。

 これは、会社としてどのように食品衛生に取り組むかを、社長が発表するものです。会社の品質管理の指針となるものですので、ぜひ毎年発表するようにしてください。

 品質方針は社員全員に教育すべきものとなっています。安全衛生マニュアルに掲載することで、対外的にも教育していることの証明になります

 

 「社内規則」のページでは、業務上の禁止事項などを取り上げています。

 これらは、社会人として当たり前の内容ばかりです。ですが、食品業界では、従業員の不適切な行為がSNSで拡散されて問題になったケースも発生しています。まず最初に、会社員としてしてはいけないことを理解してもらいましょう。

 

 外部者の立ち入りに関しては、コーデックスのガイドラインでも対応が求められている項目です。食品製造の場に立ち入る人は、誰であっても、衛生的な入場ルールを守り、作業環境や食品を、汚染することが無いように管理するルールを作りましょう。

 

 ハラスメントやコンプライアンスについても、連絡用のツールを用意することが望まれます。社内で規定を作るなど、発信者の不利益にならないような発信方法や、立場を守ることへの明言が必要です。

  就業規則に掲載しているのは、出社前に確認すべき事項です。

 まず、「食中毒・感染症対応」では、食品を介して人の健康被害につながる症状を持つ人が、食品製造の場に出勤することを防止する項目です。

 出社すると、トイレや食堂などの共用施設を介して、他の従業員に感染する恐れがあります。事前に会社に連絡を入れ、出社しないようにすることが適切です。

 

 対象とする症状は、下痢、嘔吐、発熱という、食中毒の主症状です。このような症状がある人が食品を扱うと、直接または間接的に食品を汚染し、重大な食中毒事故に発展する恐れがあります。また、発熱はノロウイルス感染症やインフルエンザなどの社内感染にもつながります。

 ルールには「嘔吐」でなく「吐き気」と表現しています。吐き気のある人が作業場内で嘔吐した場合、深刻な環境汚染や食品ロスに繋がります。吐き気のある人は出社しない事が重要です。

 

 手荒れ化膿した傷を持つ場合は、黄色ブドウ球菌食中毒防止のため、直接食品に触れる作業を避けるべきです。

 手荒れや傷については、血液や絆創膏が製品に付着するとクレームの原因になりますので、対応ルールを決めておくことが必要です。

 

 タバコは毒物ですので、作業場への持ち込みは禁止すべきですし、作業中の喫煙は禁止しましょう。

  身だしなみのページでは、人由来の異物混入防止についてルールを決めています。

 

 毛髪は、異物混入クレームの中で最も多い原因物質です。

 日常の洗髪やブラッシングで作業中に抜ける髪を減らすことや、長い髪は束ねて抜けても落ちにくくすることをルール化しましょう。

 

 爪が長くなると、爪の間の汚れが取れにくくなり不衛生で、手袋や包材に穴をあける危険があります。

 ネイルやマニキュア、落下する恐れがある化粧やハードコンタクトレンズについては、実際に混入によるクレームが発生していることから、作業中は禁止することが推奨されます。

 

 ロッカー室(更衣室)は衛生的に管理し、作業者への交差汚染を防止する必要があります。

 ロッカー上部は埃がたまりやすい場所ですので、物を置くと清掃不良を招き、物を動かす際に埃が落下します。ロッカー上部には物を置かないルールにしましょう。

 

 作業服と、外部で着用した私服が接触することで、作業服に異物や汚染が付着する恐れがあります。

 特に冬の防寒服の毛皮や羽毛は、異物混入につながりやすいため、制服と区分して保管するようにしましょう。

 作業場への持ち込み禁止物について、ここでは一切の私物の持ち込みを禁止するというルールにしています。

 

 特に携帯電話や時計、財布などは、洗浄殺菌することができず、手由来の病原性微生物で汚染している危険があります。

 作業場内では、会社の定めた備品や文具のみを使い、異物混入や食品汚染につながる恐れがあるため、一切の私物の持ち込みは禁止することが推奨されます。

 

 作業中に使用する、老眼鏡やコンタクトレンズなど、許可された私物を作業場内に持ち込む場合は、それに対するルールが必要です。入場時にと退場時の確認チェックすることで、作業中に紛失や破損がなかったことを記録に残しましょう。

 

 作業服の下に着るアンダーウエアーが、異物混入につながる場合があります。

 アンダーウエアーには、毛足の長い繊維の衣服や、ビーズやスパンコールなど、割れたり落下したりすることで異物混入につながるものは、着ないように指導しましょう。

 制服を着用する前に、アンダーウエアーにローラーかけすることもお勧めです。

 

 衣服の柔軟剤や香水の強い香りは、食品の官能確認を妨げたり、お客様の不快感につながります。過度の香りは禁止しましょう。

  食品衛生法で食品を取り扱うものの衛生管理として、次の症状については症状の把握や作業への従事について判断が求められています

  • 黄疸
  • 下痢、腹痛、発熱
  • 皮膚の化膿性疾患等
  • 耳・目又は鼻からの分泌(感染性の疾患等に感染する恐れがあるものに限る)
  • 吐き気及びおう吐

 ここでは、食品の製造に従事する人の健康状態を、個人衛生申告で確認し記録に残す、チェックリストの記入方法を説明しています。

 

 後になって、✖️がついた人が作業に従事していたということがないように、チェックリストに✖️がつく場合は、必ず上長に報告して、指示を受けるというルールを徹底してください。また、上長はその指導内容について、チェックリストに記録を残すようにしましょう。

 

 このチェックリストは食中毒などの事故が発生した際、管理状態を証明する書類として、外部から確認される可能性があります。正しい記入方法を全員が理解するよう、繰り返し教育してください。

 ここではチェックリストの記入方法を指導しています。

 

 食品事故は突然発生します。その原因究明の際、製造当時の状況を記録を、正しく残しておくことはとても重要です。

 

 チェックリストは確認が必要な項目を決めて、基準を明記しておき、製造時の確認内容を記録することで、基準値が守られていることの証明を残すことが大切です。

 基準値を逸脱した場合や、異常な事態が発生した場合は、必ず上長に報告し対応指示を得るルールにしましょう。

 その改善方法や対応内容を記載しておくことで、今後の改善に繋げる資料になります。

 記録は期間を決めて保管することで、後日正しい製造を証明するための証拠になります

 

 チェックリストへの記入は、誰もが、読んで理解できる文字で、わかりやすく記入する必要があります。

 また、その信ぴょう性を確保するため、メモ書きや下書きからの清書や、修正テープでの書き直しは禁止すべきです。

 省略記号も確認したことの証明になりません。

 

 チェックリストに空欄や消し線があると、製造状態の把握ができなくなります。提出時には記入漏れがないことを確認し、工場管理者が内容を確認して押印するなど、製造状況を把握できるルールにしてください。

  作業場への入場手順も明確にしておきましょう。

  ここでは、製造業でよくあるタイプの作業服の着方を取り上げています。

 

 まず、帽子をかぶる前には、長い髪は束ね、全ての毛を覆うように帽子を被ります。毛髪クレームが多い場合、帽子の下にインナーキャップを着用することで、毛髪の落下防止効果が上がります。

 着用後は、毛髪がはみ出していないか確認し、アンダーウエアーにローラーをかけましょう。

 

 作業服を着用する際は、帽子や上着に施された、異物落下防止インナーは、下の衣服にインして、適切に着用しましょう。

 以前、腰パンが流行っていた当時、「ズボンはウエスト位置で着用すること」などの注意書きを入れたことがあります。初めて作業服を着る人には、衛生的な着用方法を教育してください。

 

 調理現場は、食器が落下して破損したり、熱湯や薬品が飛び散ったりします。素肌が出ないように靴下を着用しましょう。

 

 入場前に作業靴に履き替えます。外部の汚染を作業場内に持ち込まないため、靴の履き替えや靴底の消毒ルールは必須です。

  作業服を着たら、入場前に作業服に付着した異物を、粘着ローラーで除去します。

 

 大きい工場では、出入り口にエアーシャワーを設置しているところがありますが、どんな強風でも作業服に付着した異物を全て除去することはできません。

 粘着ローラーを使った異物除去ルールを作りましょう。

 

 粘着ローラーをかけるタイミングとしては、左にあげた通りですが、特に作業場に入る前や、トイレ後のローラー掛けは、食品への毛髪異物混入防止に、とても重要です。たとえ毛髪でも、不衛生な部分の毛髪は不快異物として深刻です。

 

 作業中に体を動かすことで静電気が発生し、毛髪や繊維異物が外に出やすくなります。特にフィルムを使用する包装作業場では、静電気の発生量が多いため、異物がフィルムに引き寄せられ、製品に混入するリスクが高くなります。作業中にローラー掛けを実施することが推奨されますが、その際は、食品や包装機の近くで行わないように注意しましょう。

 

 ローラーの粘着シートは、何人目で交換するというルールではなく、適切な粘着力があることを確認して使用するというルールが適しています。必要な場合は、粘着シートを何枚使おうとも、全て除去して作業場に異物を持ち込まないことが重要です。

  食品を汚染する原因のほとんどが、手によって伝搬されると言っても過言ではありません。そのため正しい手洗いの実施はとても重要です。

 

 まずは袖を肘まで上げて、手の汚れを水で洗い流します。

 その後、せっけん液を手にとって十分泡立て、入念に手を洗い、水で流します。そして、もう一度同じ手洗い動作を繰り返す、「二度洗い」をここでは推奨しています。

 手洗いせっけんは、液体のものが使いやすく、衛生的です。

 固形のものは、水でふやける上に、皆んなで触って使うため、せっけん自体が微生物で汚染され、かえって手を汚染する原因になります。香りのない、薬用液体石鹸を使用しましょう。

 

 以前は、爪ブラシを使用するように指導されていましたが、爪ブラシは衛生的に管理することが難しく、菌の温床になりやすいため、最近は使われなくなっています。

 爪が伸びていると、爪先の汚れが落とし辛くなるため、爪は白爪1mm以内にカットするように指導しましょう。

 

 手洗い後は衛生的なペーパータオルで水分を拭き取ります。布タオルを供用することは、大変不衛生ですのでやめましょう。ジェットタオルは、吹き出し口や内壁に手が触れると、洗浄後の手を汚染してしまいます。

 手を汚染しない使用ルールを指導しましょう。

 手洗いについては、実施タイミング、注意点、アルコールの使用方法などのルールも必要です。

 

 手洗いのタイミングとしては、作業室に入場する際や、トイレ後はもちろん、手が汚れた後には必ず実施することが大切です。

 

 ペーパータオルの使用については、十分水分を除くことがアルコールの殺菌効果に関わります。

 消耗品の削減なども大切ですので、使用ルールの共有は大切です。

 

 アルコールの使用については、効果的な使用方法はもとより、手荒れのある人に対しては、アルコールによる重症化防止なども考慮して、ルールにしておくと良いと思われます。

 

 手洗いの際に必要なルールなどは手洗い場所や器具によっても違ってくるかもしれません。

 必要なルールを掲載してください。

  ロッカー室の衛生ルールとしては、作業服を衛生的に管理できることが大切です。

 ロッカーの上に物を置くことは禁止にしましょう。

 私服との交差汚染防止については、狭い環境でも室内にアウター用のハンガーを設置したり、ビニール袋を使ったロッカー内の区分けなどで、制服への汚染を防ぐ方法も考えられます。

 

 トイレの衛生ルールでは、トイレ由来の食中毒菌の伝搬を防ぐことが大切です。

 

・トイレ専用の履き物との履き替え

・作業服を着用したままでのトイレ使用禁止

・アンダーウエアーの袖口汚染防止

・トイレ使用後の手洗いの実施とその後の制服の着用

・ローラーかけによる異物除去

 この他にも、自社のルールを明確にして記載しましょう

 

 画像の中に利用しているのは、長野県保健所が実施した、トイレでの汚染拡散の実験です。

 この実験では下痢便により汚染を受けたお尻を拭く際に、親指の付け根あたりに汚染が広がる様子が見られます。

 食中毒菌に感染しても症状が出ない場合があります。下痢便だけでなくてもウォシュレットを使用すると、同じ状況になることが考えられます。

 トイレを使用した後、すぐに手を洗うことの重要性を明確にできる資料であると思い、私は教育に使用しています。

 

 

 

  手を洗ったら、次は決められた保護具を着用しましょう。

  一度、作業着を汚してしまうと、作業着が触れた環境や食品を、次々汚染することになります。作業に適した保護具を使用し、作業に応じて交換することで、相互汚染を防ぎましょう。

 ここで重要なことは、汚染した保護具のままで、消費者がそのまま食べる食品を扱わないことです。

 生の畜肉や魚介類には、食中毒菌が高確率で含まれています。

 それを扱った保護具や器具にも、食中毒菌が付着している恐れがありますので、その保護具をつけたまま、消費者が口にする食品を扱うことは、とても危険なことです。

 

 そのまま提供する食品を扱う際の、手袋やエプロンは、使い捨て用品を使用した方が、交差汚染防止には有効です。再利用する場合は、洗剤で汚れを洗浄し、衛生的な場所に吊るして乾燥しましょう。

 

 作業中、保護具が破損すると異物混入の原因になります。頻繁に確認するように教育し、異常時の対応を決めましょう。

  手袋の着用に関するルールは、食中毒防止にとても重要です。

 手荒れや傷のある作業者が作業する場合は、手袋を場内で外す事で、環境を汚染しないよう、誰もが納得できる、細かいルールを決めて運用してください。

  作業場内での飲食の禁止は、コーデックスのガイドラインでも明記されています。顔や口に触れたりすること自体が、手の汚染につながり、食品の汚染に発展する危険があります。

 水分補給は作業場の外で行い、作業に復帰する際には、手洗いやローラー掛けを実施する事が推奨されます。

 

 作業中はマスクを着用することで、作業者の口腔由来の微生物汚染を防止できます。マスクをしていても、食品のそばで、くしゃみやおしゃべりをすることは禁止しましょう。

 マスクは鼻までおおい、作業中にマスクに触れた場合は、手洗いを実施するよう教育してください。

 

 春になると花粉症の人が増え、ティッシュペーパーで鼻を拭きながら作業している光景を見る事があります。

 しかしながら、炎症を起こしている部分には、黄色ブドウ球菌が存在する場合があります。重い症状がある場合は、適切な治療を受け、症状が改善するまで作業場への入場は控えましょう。

 

 マスクの中にガーゼやティッシュペーパーを挟んでいると、それが落下して食品に混入する事があります。

 ディスポマスクの下に布マスクをする場合も、何も挟まないように指導してください。

 食中毒や食品の劣化を防ぐために、食品を低温で保管することは重要な管理点です。

 

 まずは、要冷食品を受け入れる場合、配送中の品温上昇による品質劣化がないかを確認しましょう。

 特に魚類(内蔵が含まれるものは特に注意が必要です)は、不適切な温度で置かれることにより、ヒスタミンを生成する微生物が増殖し、ヒスタミンによる食中毒が発生するおそれがあります。品温が上昇した魚類は使用しないようにしてください。

 

 入荷した食品は常温に放置せず、すぐに冷蔵、冷凍庫に収容し、品質保持に必要な低温で保管します。

 そして、保管中の食品の安全を保証するため、設備が適切な温度で管理されているかを確認する必要があります。

 冷蔵庫や冷凍庫の庫内温度は、回数や時間を決め、適切な管理基準温度を表示して、チェックリストで確認しましょう。

 管理基準を逸脱した場合の処置についても、ルールを決めて表示しておき、不適切な保管状態の食品が使用されないように管理してください。

 

 冷凍品を解凍する際は、品温が10℃を上回らないように管理します。電子レンジでの解凍は、不均一に温度が上昇する恐れがあるため、そのまま加熱調理に使用しましょう。品質劣化につながるため、解凍した食品を再凍結することは禁止しましょう。

  食品を保管する際の注意事項も、従業員が理解しておくことが必要な項目です。

  食品は衛生的な場所で保管する必要があります。洗剤や、廃棄物などと近接した場所での保管は禁止してください。

 

 期限管理は非常に重要な管理項目です。家庭では、賞味期限が過ぎた食品を使用しても問題ではありませんが、商用の食材は賞味期限内の使用が求められます。不適切な原材料の使用は、自主回収に繋がりますので、作業場内に賞味期限が切れた食材を保管することは、絶対禁止してください。

 

 一度開封した加工食品は、酸素に触れることにより、設定された賞味期限まで品質を保持できない場合があります。自社で「原材料管理基準」を作成し、開封後の加工食品や、自社で調理した仕掛品の、保管温度や保管期間を決めて一覧にし、それを保管容器に明記するなどして管理してください。

 

 この保管期限には、誰もが理解できる科学的根拠を準備することが望まれます。官能検査や微生物検査を実施して、期限までの、十分な安全が保証できる検査結果を保管しましょう。

 

 食品の交差汚染による危害防止対策について、適切なルールを決め、全員が理解するよう教育を実施してください。

  加熱調理は、生肉や魚介類の病原性微生物を殺菌する、重要な管理点にあたる工程です。

 

 加熱温度については、対象となる微生物により、食品安全委員会が安全な温度基準を公表しています。

 しかしながら、鶏肉ならカンピロバクターの65℃数分、ミンチ肉ならサルモネラやO157の75℃1分と、決めても大丈夫かという問題があります。

 もし、食品にノロウイルスが付着していた場合、これらの温度では感染の危害が残ることになるため、加熱基準は最も高いノロウイルスの基準値を設定する方が安全と言えるでしょう。

 最近では、ノロウイルスの殺菌に必要な温度は、85℃1分になっていますので、できるだけこの温度まで加熱するようにし、確認方法をルール化しましょう。

 

 食品中の温度を確認するには、中心温度計を使用しますが、この温度が正確でなければ、安全は確保できません。

 作業前後に沸騰水を計測し、適切な温度帯を示すことを確認してから使用し、証明のために記録に残しましょう。

 

 また、中心部分の肉色の確認や、肉の中心部分を串で刺して、透明な肉汁が出ることも、目視確認として有効な手段です。

 食中毒を防止するため、お客様に提供する食品に加熱不良がないように、確実に確認できる方法を設定することが必要です。

 消費者の健康被害につながる恐れのある項目として、食品の有害部分への対応と、アレルギー物質についての注意事項を取り上げています。

 

 食品にカビが生えた場合、その部分だけを除外して使用することは、安全な方法とは言えません。カビの菌糸は全体に及んでいる恐れがあります。食品が長く滞留しないよう、食品は先入先出で管理し、適切な量を仕入れるようにしましょう。

 

 食品アレルギーを持つ人にとって、アレルギー物質のわずかなコンタミが、命に関わる症状につながる場合があります。

 食品を扱う人は、どのような食品にアレルギーが起こるのか、理解しておく必要があります。

 

 表示義務があるアレルギー物質は、消費者に分かりやすく、間違いなく伝達する必要があります。

 これらのアレルギー物質は、特に重篤な症状が現れる危険があるため、食品の保管や調理中の相互汚染に注意が必要です。

 

 製造に使用する複合原材料である加工食品は、添加物や副原料にアレルギー物質を含むものがあります。

 使用する原材料の「原材料規格書」を取り寄せ、お客様からの問い合わせの際は、メニューごとのアレルギー表を作成して、適切に対応できるよう準備しましょう。

 作業場内で体調不良が発生した際の、対応についてのルールを決めています。最も重要なことは、作業場内での嘔吐の防止です。嘔吐がノロウイルス由来であれば、飛沫や吐物からのミストで、ウイルスに感染することが知られています。すぐに検査ができない以上、最悪のケースを想定して対応する必要があるため、付近の食品はすべて廃棄することが必要です。

 

 この危害を十分教育することで、従業員が他者の健康に注意するようになります。隣の人の顔色が悪い事を見逃さず、早めに対応する事が重要です。処置セットの使い方を含めた嘔吐発生時の予行演習を実施して全員が対応を理解するようにしましょう。

 

 ここでは、交差汚染を防止するため、作業内容を汚染度別に、汚染区、準清浄区、清浄区に分類し、下位で受けた汚染を、上位の作業に持ち越さないように、ルールを定めて教育する事を提案しています。作業場が手狭な場合、難しいこともありますが、この区分が食中毒の防止には大変重要なのです。

 

 それぞれの作業区で使用する、シンクや調理器具、冷蔵庫を分けることで、交差汚染を防止できます。また、自分がしている作業はどの衛生区に属すかが判断できると、次に行おうとする作業に対する、適切な準備ができるようになります。自分の汚染状況を知ることから、汚染防止は始まります。

 機器のひび割れや、着色汚れが見られる箇所には、汚染菌がバイオフィルムを形成し、食品を汚染します。また、さらに破損しやすくなるため、危険な硬質異物の発生源になります。

 機器はぶつけたり、荒く取り扱わないようにすることと、汚染を放置しないことで耐久性が向上します。ものを大切に扱うことは基本的なことですが、繰り返し教育することが必要です。

 

 壁や天井の破損部分からは、建材片が混入する恐れがあり、隙間から衛生害虫が侵入する場合があります。施設の破損や異常を発見した場合は、すぐに適切な応急処置を実施しましょう。

 

 アルコールボトルを汚れた手で扱うと、ノズルの汚れが次に使った人の手を汚染します。特に生肉や魚の下処理や清掃の後などは、汚れた手袋を交換してから扱うルールにしてください。

 

 クロス(布巾)は、使い捨てで使用する所が増えています。作業の内容毎に色で区分するのも一つの方法ですが、清浄な作業でも、長時間使用すると布巾の汚染が進む為注意が必要です。

 クロスを洗浄して再利用する場合は、衛生的な方法をルール化しましょう。従業員一人ひとりが、汚染を防止する方法を理解するように教育してください。

 作業環境の衛生管理として、防虫防そ対策と、ゴミ出しのルールについて取り上げています。

 

 ネズミや黒ゴキブリ、大型のハエは、外部から侵入します。排水溝や空調の配管など、外部に開放した部分をなくすことで、侵入を防止しましょう。

 

 ネズミやゴキブリなど衛生害虫のモニタリングは、トラップを設置することが一般的です。ですが、外部から見える位置にライトトラップを設置したり、フェロモントラップや匂いの誘因剤をドア近辺に置くことは、外部の害虫を誘引することになります。

 また、吊るすタイプの殺虫剤で第一類医薬品と表示されたものは、食品のある場所での使用は禁止されています。設置する際には注意しましょう。

 

 防虫対策として、最も重要なのは適切な清掃です。床に物を置きっぱなしにすると、清掃不良を招き、虫に隠れ場所を提供することになります。清掃チェックリストを作り、見落としがないように清掃しましょう、

 チャバネゴキブリや子バエが大量発生した場合は、専門家の指導が有効です。業者が使用する殺虫剤については、安全テータシートを取寄せ、使用後の注意を守りましょう。

 

 ゴミ出しについては、ネズミや衛生害虫の誘因にならない対策を考慮することが重要です。

 施設の清掃は、箇所ごとに頻度と清掃方法を決め、実施した際にチェックするルールにすると、適切な衛生管理が実施できている証明になります。清掃後は責任者が出来栄えを確認し、承認印を押しましょう。

 

 清掃用具は不衛生になりやすいため、食品や作業場とは区分した場所で保管することが望まれます。

 また、使用後の清掃用具の洗浄・保管方法や、破損したものの交換について、衛生的なルールを作り管理しましょう。

 

 洗剤や薬品の保管場所も、誤使用や相互汚染防止のため、食品や作業環境から区分することが推奨されます。

 小分け容器やスプレー容器は、内容物名を明記して誤使用を防止しましょう。食品や調味料が入っていた容器を小分け用に再利用すると、誤使用の誘因になります。実際に誤使用による事故も多発していますので、注意するよう教育しましょう。

 

 食品製造の場では、水酸化ナトリウム(苛性ソーダ)などの劇物にあたる薬剤を使用する場合があります。劇物や毒物を保管する場合は、鍵のかかる保管庫に「劇物・毒物」と明記して管理する必要があります。その他、次亜塩素酸ナトリウムやアルコールなど、危険性のある薬剤は、安全データシートを取寄せ、注意事項を守り、保護具などを使用して安全に取り扱いましょう。

 顧客対応では、クレームと緊急対応について取り上げます。

 

 お客様からのクレームは誠実な対応が求められます。

 最近ではモンスタークレーマーによる悪質な犯罪が発生していますので、危険な場合の対応についても、連絡先を決めておきましょう。

 クレームを受けた場合は、最初の対応は気分を害されたことに対するお詫びから始めましょう。

 クレームの受付は、専用リストを用意してそれに記入するか、聞くべき内容を決めておき、日報などに記入するか、とにかく日時と内容などの記録をとってください。

 クレーム現品は必ず回収し保管しましょう。現物がない場合は、包装やレシートだけでも回収してください。これらを保管する場合は、食品は冷凍保管が基本です。製造にご使用しないよう明確に区分して保管しましょう。

 

 お客様が体調を崩された場合の対応も、ルール化して全員が理解しておきましょう。

 飲食店で嘔吐が発生した場合は、状況によっては、お客様の避難も必要です。

 アレルギーによるアナフラキシー状態を起こされた場合は、最悪の事態を想定して早めに救急車を手配するようにしましょう。

 

 地震や火災などの災害時の、お客様の安全誘導についても、普段からマニュアルを訓練し備えておきましょう。

 次に作業中の労働災害防止についてのルールです。

 

 作業場内で災害防止のため注意が必要な場所には、注意喚起表示などで、危険を周知しましょう。

 

 食品製造の場では、床が水で濡れて滑りやすくなっている場合があります。

 作業靴を会社で準備する場合は、滑りにくいものを選択する必要があります。それでも、作業場内を走ったり、足元の確認を怠ることは危険です。

 

 包丁保管庫やスライサー、カッターには不用意に手を入れないよう指導が大切です。

 稼働中のローラーや回転軸に手を近づけると、手袋を巻き込まれる危険があります。

 これらは食品工場で多発しており、重大な事故につながります。安全なルールを繰り返し教育し、全員に徹底してください。

 

 腐食性の強い薬品や洗剤が、目や皮膚に付着した場合は、15分以上水で流し、上長に報告して、必要な場合は医師の診察を受けることが基本です。

 アルコールやスプレーを多用するところでは、火災や爆発への注意も必要になります。

 薬品や洗剤の原液を扱う場合、必要に応じて保護メガネや保護手袋を着用するよう、安全ルールを作りましょう。

 ここまで紹介してきたルールは、どれも食品を安心安全に製造するために必要な項目です。

 しかしながら、最も重要なことは、作業する一人一人がこの内容を理解し、何が危険であるかを感じ取れることだと考えます。

 そして、感じ取った危険を見過ごさず、ルールに沿って正しく対応していくことで、安全な食品を提供できるのです。

  そのために必要なのは、やはり「報・連・相」です。

 

 問題がありそうなことに気づいたら、必ず上長に報告し、正しい対応指示を受けることです。もちろん上長はこの正しい対応について熟知している必要があります。今の作業や利益より、消費者の安心安全を主に判断しないと、後で大きい問題になる恐れがあります。これは、今までに発生した色々な事件で、すでに証明されています。

 

 作業中、ちょっとした不衛生な行為をしてしまった経験は誰しもあるものです。その時は問題にならなくても、これからずっと安全である保証はありません。人の健康に被害をもたらしてからでは、反省しても決して元には戻りません。

 皆さんがどう行動するかで、消費者だけでなく、お店や会社の安心安全が確保できることを、十分教育してください。

 ルールブックの内容は、会社の扱う製品や、施設の規模によっても必要な内容が異なります。

 ブックレット印刷の際は4の倍数の枚数にするのが良いと思いますので、共有したい内容を盛り込んで作成してみてください。

 「教育用小冊子を作ろう」のサイトでも、参考にしていただけるような画像を載せていますので、皆様にも作っていただけると、必ずやその効果を実感していただけると思います。

 

 →教育用小冊子を作ろう