それでは作業を始めましょう。
まず最初に、取り組む食品を決めます。
あまり時間に余裕が取れない事業所では、一度に大体の形を整えるためにも、いろいろな原材料や工程を含む、代表的な製品やメニューを選択するといいと思います。
本来は、一般的原則の方に取り組んで、その中でHACCPを構築します。
今回は、より取り組みやすくするために、一つのメニューや製品について、HACCPの構築をする中で、食中毒や自主回収につながる危害防止を考えていきます。
一般的原則の要求事項や、HACCP構築手順や原則については、「HACCP学習室」のHACCP基礎講座でご確認ください。
ウェブ塾では、「唐揚げ定食」を例に説明していきます。皆さんも何か製品を一つ決め、例を参考に考えていきましょう。
商品説明書は、お客様から品質に関するご質問があった際に、従業員の全員が理解しておくべき内容をまとめたものです。
取引先や保健所の監査の際にも、必ず提出を求められる資料ですので、この機会に、全てのメニューや製品について、例を参考に作成しておきましょう。
[内容について]
商品説明書を作成するためには、使用する原材料の詳しい情報が必要です。
原材料メーカーから原材料規格書や原材料の商品説明書を入手して確認しましょう。
原材料の安全性について、その製造者が信頼できるかを確認する必要があります。原材料規格書や商品説明書を提出ができるかが、一つの判断基準になります。
提出してもらう際には、記入間違いがないことを、印刷物に社印を捺印してもらうことで、保証してもらいましょう。
また、包装食品には栄養表示が義務になりましたので、原材料の栄養成分情報が必要です。
表示や栄養価の作成には、書面とともにエクセルなどの表計算ファイルで提出してもらうと便利です。
内容が変更になった場合は、すぐに再提出することと、受入時の品質不良品は返品となることは、納入先と申し合わせておきましょう。
食品の表示に関しては、景品表示法や食品衛生法で、表示基準が決められているため、違反があると自主回収の指導につながります。
自主回収は企業のイメージを下げ、損失も発生するため、企業にとっての危害と言えます。そのような事態を防ぐためにも、説明書を作成する際に次の項目を確認してください。
これらの項目は、適切に行われていることを証明する必要があります。それぞれに確認できる資料を揃えておきましょう。
原材料に関することは、原材料規格書や納品伝票などを保管することで大丈夫です。
景表法に関する表示では、「たっぷり」や「自家製」、「手作り」などの表示についても説明できるように、表示の根拠やマニュアル、レシピなどを保管しておきましょう。
その他、消費者庁のホームページに詳しいQ&Aが掲載されていますので確認してみてください。
http://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/qa/processed_foods_05/#a23
メニュー・料理等の食品表示に係る景品表示法上の考え方について
http://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/guideline/pdf/140328premiums_5.pdf
飲食店で特に注意していただきたいことがあります。
生肉や、十分な加熱をしないで鳥獣肉や内臓を提供する、メニューがある場合のお願いです。
現在、生食用食肉として許可されているのは、「生食用牛肉(内臓を除く)」のみで、これを提供する施設にも細かい取扱い基準が決められており、保健所への届出が必要です。
鶏肉や豚肉は生食用は流通していないため、販売しているものは全て加熱用です。
鶏肉は高確率でカンピロバクターを保有しており、「とりわさ」「たたき」などの生肉メニューで、今も多数の食中毒が発生しています。特に、小さい子供やお年寄りでは、ギランバレー症候群により重症化することもあります。
豚肉にはE型肝炎ウイルスや、トキソプラズマが含まれていることが知られています。
牛肉でも、加熱用の牛肉を使用してユッケやさしみを提供した結果、O157食中毒が発生し、死亡事故につながったケースもあり、生肉は大変危険な食品なのです。
大きい危険をおかしてまで、生肉や、不十分な加熱の肉や内臓を提供することは、企業として正しい選択ではないと私は思います。もちろん、生肉を提供するためのHACCPは、危害を抑える方法がないため作れません。
この機会に、生肉メニューの提供をやめ、誰もが安心して食べられるメニューへの変更を検討ください。
真空パックで袋詰めした食品を常温で販売しているメーカーの方に確認していただきたいことがあります。
pH4.6、水分活性0.94を超える食品では、中心部が、F値=4以上の殺菌(120℃4分以上の殺菌)を実施していますか。
ボツリヌス菌は、命に関わる重篤な症状につながる猛毒の神経毒を作ることが特徴です。今までにも、「辛子蓮根」や「あんばっとう」という製品で、重大な食中毒事故を起こしています。
この菌は、酸性の食品や、水分活性が低い食品では生育できませんが、この環境が少しでも崩れると、冷暗所の環境でも生育し毒素を生成します。特に、真空包装して不十分に加熱された、酸素分圧の低い状態で活発に増殖するのです。
中心部が120℃4分の加熱殺菌を行うためには、特別の装置が必要で、確実に実施できているかをモニタリングすることが必要です。そして、殺菌後の製品の保管検査や、包装の圧着状態の確認も必要になります。
今まで、事故なく販売できてきた場合でも、たまたま原材料にボツリヌス菌が含まれていなかっただけのことです。ボツリヌスの毒素は、兵器にも使用されるほどの猛毒です。重大な食品事故を防ぐためにも、製品の物性および、殺菌条件の確認をお願いします。