先日、最近発生した焼き菓子の腐敗事故について、賞味期限の根拠をとっていたのかを問題視する記事が、大手新聞に掲載されていました。
賞味期限の根拠とは、消費期限・賞味期限を十分保障できる安全率を考慮した期間、食品が安全に、美味しく食べられる状態であることを、テストで確認したもので、検査記録などがこれにあたります。検査は汚染指標菌などの微生物検査、p Hや水分活性などの理化学検査、食味やテクスチャーを評価する官能検査を、食品の特性に応じて選択・実施することになります。
必要な検査ができる環境が自社にあれば、自主検査を実施できますが、自社で検査ができない場合は、外部検査機関に検査を依頼することになります。外部機関での保存検査は、検査期間や項目によって、かなり費用がかかる場合があり、中小零細事業者には大きい負担になります。
新製品を開発し発売する場合は、使用する原材料を決め、製造工程を決めます。十分試作や保存テストを繰り返した上で、検査で消費期限・賞味期限内の安全性を確認する必要があります。これが起源の科学的根拠です。
その上で、販売後も決定した製造工程を守って製造・販売することが望まれます。今回の事故のように、多量に発注が来たから、いつもと違う保管条件で製品を保管したということは、あってはいけないことです。
科学的根拠設定のため、検査に供する製品についても、実際のラインを通して製造した製品を使用するべきですが、いきなり製造ロットでテストをするのは、かなりの製品ロスを生む可能性があります。
ほとんどの場合、小ロットでテストした製品を検査するのですが、テスト的に小ロットで作った製品と、大量受注で最大ロットで製造した製品では、その品質が異なることも考えられます。
期限根拠検査で良好な結果が得られた製品についても、工程での季節的な汚染状況の変動や、原料の品質の変化が考えられることから、製品化後も定期的に検査を繰り返して行い、工程の安全性を確認することが必要であるといえます。
特に法的に微生物などの規格基準のある食品では、製品の品質確認の必要性が高くなるため、簡易検査キットの使用などによる自主検査を導入することも、有意義であると思います。
原材料については、信頼できるメーカーの品質が安定した加工食品を使用する場合と、天然、無加熱、無加工のものを使用するのとでは、その危害がかなり異なります。実は消費者が望む「採り立て」「生」「未殺菌」などの生原材料は、食中毒菌など危害要因が多く、製造工程の殺菌条件を厳密に管理する必要があるばかりか、製造環境の二次汚染を防御する対策を十分考慮する必要が出てきます。
加工食品原材料を使用する場合も、決められた原材料取引先をいきなり変えて製造することは、原材料の持つ危害が異なる可能性があり、危険であることを認識する必要もあります。
今回の事故の場合は、製造キャパを超える受注により、通常の製品保存温度ではなく、室温で長時間保管していたということが、製品腐敗の主なる原因であったようです。このような、初期に製品に設定した製造工程を守らず作られた食品は、例え賞味期限の根拠書類があったとしても、それは有効なものではないのです。
この業者の問題は、これまで営業してきた中で、特に問題が無かったということが、安全の根拠だと考えたことかもしれません。「これぐらいなら大丈夫だろう」と思うことが、事故の発生につながりやすい、一番危ない状況です。
HACCPは原材料の危害について分析し、消費者の健康被害につながる重要な危害について、十分安全な状態にできる工程を設定し、それをモニタリングして監視することにより、製品の安全につなげる手法のことです。
危害の分析や殺菌工程の設定については、ある程度の専門知識は必要ですが、使用する原材料のメーカー規格書や、厚生労働省のHPでも原材料のカテゴリーごとにまとめられた危害情報が得られるようになっています。
製造工程ではそれぞれの危害を抑える条件を決め、その状態をモニタリングできる方法を決めて、状態を記録して管理します。
工程を設計する上で特に大切なのは、加熱工程がある場合は、温度と時間の設定と中心温度の確認で、85℃1分半程度の熱殺菌が確保されていること。加熱後は二次汚染を避けて10℃以下に急冷するか、55℃以上でホットキープすること。
加熱工程のない場合は、殺菌処理の方法や殺菌剤の濃度を守り、殺菌後の食品は二次汚染を避けて、10℃以下。できれば5℃以下で管理することなどが中心になります。
今回の事故では、多量の注文を受けた時点で、冷凍ストッカーを増設して販売まで製品を冷凍保管していたなら、こんな事故にはならなかったのかもしれません。
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