私には夏になると思い出す苦い思い出があります。
話は20年以上前の真夏のことです。
当時勤務していたのは大手スーパーの米飯部門デリカ工場です。その工場では、当日製造した製品を昼前に官能検査していました。
ある日、五目ごはんの官能で若干異臭が感じられました。少し日向臭い感じで、心なしか粘った感じがします。感じない人もいましたが、とにかく感じが違うのです。
すぐに冷蔵庫に保管している、五目ごはんの具を確認しました。
外観的には特に膨張などの異常は見られません。しかしながら、一袋を取り出して軽く叩いて振動を与えてみると、細かい泡が湧いてきました。それも同具材が全て泡立っていたわけでなく、発泡のないものもありました。つまり不適合の状況にはばらつきがあったという事です。
間違いなく何かが起こっていると感じ、異常を上部に発信して、結局、売り場から商品を回収してもらいました。
サンプル品の微生物検査で、基準逸脱の結果は出なかったことから、後で真偽を疑われたこともありましたが、一部の製品で臭気に異常があったことも事実で、売り場撤去がスムーズに行われたことで、消費者被害を防げたことは間違いありませんでした。
その後、発泡していた異常な原材料(レトルト食品の五目ごはんの具)は未開封の状態で検査したところ、耐熱菌が多数発見され、包装後のレトルト殺菌の際にルールに反した行動があったことも判明しました。
この具を製造したのは大手の製造工場ですが、当時、繁忙期の対応としてレトルトトレーに並べる数を多くしていていた事がわかりました。そのため高圧殺菌装置の庫内の温水循環が妨げられ、通常の殺菌効果が得られなかった可能性が出てきました。不適合状態にばらつきがあった理由は、この庫内温度差が原因している可能性があります。
その上、この具材が搬送された当時、真夏でかなりの猛暑でした。具材は常温トラックで搬送されたため、品温上昇とトラックの振動による震盪効果により、レトルト時に生存した好温菌が繁殖したものとも考えられます。
当方の製造工場の原材料保管場所にも問題がありました。
当時、原材料冷蔵庫はかなり手狭になっており、入荷した常温原材料を35℃以上の環境で数日保管していました。レトルト殺菌後も生き残る超高温菌には、40℃付近で増殖するものもありますので、この保存環境も悪影響を及ぼしたものと考えられます。
その後、具材原材料は順次冷蔵庫に移されたため、低温で微生物自体は静菌したので、包装が膨張するまでの状況にはな離ませんでした。そのため使用時に異常に気付かず、ご飯に混合され、その発酵生産物により製品に官能異常をもたらしたものであったと考えられました。
その後、実際に具材から検出された微生物は、火落菌と呼ばれる高温菌の一種である事がわかりました。
いろいろな原材料の匂いが漂う現場で、異臭で原材料の不良に気づくのは安易なことではありません。
やはり製品の確認のためには、現場ではない冷静な判定ができる場所で官能検査を実施することが、不適合品の流出防止には大切であると言えます。
今年の夏は記録的な猛暑に続く残暑で、9月中旬に発生した弁当製造業者の製品による食中毒は、全国350人以上に被害を与えてしまいました。
まだ原因は特定されていませんが、2製造日に渡った製品が原因とされています。
もしも、製品の官能チェックが十分機能していたら、防げた事故かもしれません。
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