先日、久しぶりに日本細菌検査の営業の方と話をする機会がありました。
彼女と出会ったのは、もう20年も前のことです。
当時お勤めしていたOEM主体の菓子製造業では、栄養補助ゼリーなどの製品の微生物検査を、毎日相当検体数実施していました。そんな時、飛び込みで3Mさんと営業にやってきて、ペトリフィルムを紹介していただき、その後この検査法を採用することにより、検査にかかる人時の削減と作業環境の改善を実現できました。
微生物検査の公定法が寒天平板培地法であることから、当時はペトリフィルムに否定的な意見もありましたが、培地自体が国際規格に合致している物であることと(日本の食品衛生法が古典的すぎで、2015年の食品衛生検査指針の改正でペトリフィルム法は妥当性が確認された検査法になっています)、当時から多数の検査を実施するOEM先の大手乳業で、ペトリフィルム法の採用を検討していたこともあり、対外的な問題もなくペトリフィルム法を採用することができました。
当時の工場では、品質管理に割り当てられた小さな部屋で、クリーンベンチ2台(ガスバーナー使用)と培地を加熱するためのIH調理台、滅菌するための高圧蒸気滅菌機、培地を保温するための恒温水槽と、冷蔵庫・冷凍庫、インキュベーターと多数の発熱機器を動かしていて、検査室の環境は検査に適した物ではありませんでした。
ペトリフィルムを採用することで、培地を調整する必要がなくなり、その手間と発熱機器の撤去ができました。滅菌機も廃棄する培地量が激減して使用回数が減少し、使用済み培地の寒天を分別廃棄する手間がなくなりました。また、重い培地をシャーレに分注することがなくなったり、フラスコなどの洗い物も減り、作業者の負担が大きく削減されました。
これらを細かく計算すると、経費的にみても平板培地法と大差なく、私はこの検査法の選択は良かったと思っています。
その後、食品工場の監査を行う会社に転職し、色々な施設を訪れると、最初に紹介した彼女が関わった、BACcT簡易検査キットを使用している中小食品施設が多数あることに驚きました。彼女の頑張りに感心すると共に、私もその使用促進に助言できればと思ってお話を伺っていたものです。
実際、簡易検査法であっても、これを使って品質に関する微生物的な問題解決に取り組むことは可能です。私も微生物検査を主とした取り組みで、これまで品質的な問題をいくつも改善してきました。
特に夏場の製品菌数の増加については、工程での改善テストと微生物検査を繰り返しました。
微生物検査で出現するコロニーには、コロッとした点のような形のものや、ブニョブニョした広がりのあるもの、かなり小さいコロニーしか出来ないものなど、色々な微生物が存在します。
微生物検査で問題になる食品に増殖している微生物が、どんな種類かを見極めることが改善を進める元になります。
微生物の性質を知る方法として、細胞膜の状態からグラム陰性とグラム陽性という区分があります。
ざっくりですが、グラム陰性は熱に弱く、比較的低温でも増殖するグループで、病原性大腸菌やサルモネラ、大腸菌群などの腐敗菌などが含まれます。
加熱後の食品にこのグループの菌が増殖している場合は、加熱工程が不十分で原料に含まれていた菌を殺菌できなかったか、加熱した後の工程で汚染された可能性が考えられます。
グラム陰性菌による問題が散見される場合は、どこかでまばらに汚染を受けている可能性があります。取り扱う器具や手袋、番重などの洗浄・殺菌不良や、天井からの結露の落下、低位置保管による汚染物の飛散などを疑ってみる必要があります。
加熱後又は殺菌後の食品は、なるべく衛生的な容器やビニール袋などに密封し、外部からの汚染を回避して、低温で保管するようにしましょう。
一方グラム陽性菌は耐熱性を持つ菌が多く、増殖温度も比較的高いグループで、ウェルシュ菌やセレウス菌、黄色ブドウ球菌、乳酸菌、カビ・酵母などが含まれます。
この菌が問題となる場合は、加熱後の急冷・冷蔵などの取り扱い条件の改善が必要になります。加熱後急速に10℃まで品温を下げ、10℃以下で食品を保管することが、これらの微生物による品質事故を防ぐポイントになります。
グラム染色を行うには染色液の購入と、1000倍程度で拡大観察できる顕微鏡が必要です。どちらもそれほど高価なものではありませんので、検査に取り入れてみてはいかがでしょうか。
微生物検査でできることは他にもいろいろあります。せっかく食品製造の場で品質管理を担当する機会を得たのなら、いろいろ挑戦して自社製品の品質向上を目指しましょう。これはあなたにとっても貴重なキャリアになります。
日本細菌検査の彼女は、「私は専門的な知識も資格もないけど、皆さんが困っていることに対して何か手助けができるように、営業のお仕事で頑張りたい。」と言っていました。
昨今、現場での品質管理の経験や、工程での問題解決の知識のない人が、短期間のHACCP学習だけで監査員や指導者の資格が得られるようになっています。実際に問題を抱える中小企業の現場では、本に書いてあるようなことしか言ってもらえないコンサルに頼るより、もっと話しやすく、助けになってくれる人の存在が重要になっていると思います。
「もう歳だから、いつまでできるか。」と言う彼女に、「いつも、何でも聞きやすいあなたは、みんなに必要とされているから頑張って。」と言った後で、私もこのホームページを通して、何か誰かの役に立つと信じて発信し続けようと思いました。
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