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危険予知と心配症の関係性


 以前、食品事業所の衛生監査のお仕事をしていた頃、決められたチェックポイントで指摘をする中で、事業所の方から、「そこまで言うの…それって心配しすぎなんじゃないの」というリアクションを頂くことがありました。

 

 例えば、作業室の冷蔵庫に私物の飲料が置いてあった場合、作業中に飲食する事は厳に避けなければならない行為なので、私物飲料は作業室の外で保管し補給してくださいと指摘します。その理由は、飲料を取るときに唾液の飛び散りや、マスクや口元を触ることによる手指の汚染の恐れがあるからです。

 しかしながら、官能検査は作業室内で行うことを禁止していません。行為としての危険性は同じなのですが、味見は工程中の品質確認として、調理中に行う必要があるからでしょう。本当は官能検査についても、食品や環境を汚染しない対策をルール化しておくべきだと思うのですが、これは心配症の範疇になるのでしょうか。

 

 考えてみると、ちょっとした危険につながる行為を、全て排除する事はできません。むしろ、たまたまそこに食中毒菌がいなかったから、事故が起こらなくて済んでいるというのが正しいのです。

 そして、たまたまそこに食中毒菌がいた場合、条件が揃うと大きい事故になってもおかしくない。今まで何年間大丈夫でも、運が悪ければ最悪の結果を招いてしまいます。

 実は、私は夏場にお弁当を作ることができません。どのように作ったとしても、家の調理環境で、昼まで常温で置かれるお弁当を、安全に作る自信がないからです。本当に心配症がしみついています。

 

 品質管理のお仕事は、原材料の危害分析にしても、従業員の衛生管理にしても、心配症と思われるようなところまで考えることが求められます。実際の現場に即していて、外部からも評価してもらえる衛生管理システムを作ることは、危険予知と心配症の折り合う点を探す作業になります。

 原材料に存在の可能性がある危害について、どうやって確実に防ぐのか、検討を行うのがHACCPの根幹ですが、どんなに注意して作った衛生管理システムでも、隙間をつくように事故やクレームが発生します。

 大きな事故を防ぐためには、現実に沿った危険予知と、少し心配症的な目線で、製造工程や一般的衛生管理項目を、定期的に見直すことが必要であると思います。