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ルールを守る人、守りたくない人、守れない人


 食品工場の品質管理として一番辛いお仕事は、ルールを守らない人への対応に尽きるなと思います。

 

 殆どの人は、会社がルールとして決めたことは、守らなくてはいけないと考えてくれます。ルールの内容を正しく教育し、ちゃんと理解できたかの確認を行うと、決められた内容で行動ができる人です。

 でもこの人たちも、誰かがルールを守っていないと、特に立場が上の人がルールを守らない場合は、その人たちに合わせてしまうことがあります。知らないうちにルールが作り替えられていて、びっくりするケースです。

 

 このルールを守らない人には、2種類のパターンがあると、常々私は感じています。

 一つは、ルールを守りたくない人。このタイプは、会社に対する何らかの不満が根底にあります。決め事に対しては無理なことを押し付けられている感があり、仕事として評価されない食品衛生は軽視する傾向があります。

 ルールを守るようお願いしても、「そんなことしてたら仕事が遅くなる。そんなに大切なことならお前がやれ。」などという反応が返ってきます。なんとかやりやすいように環境を整え、やっと実行してもらうという、とても手のかかる困ったさんです。

 

 このタイプは何もかもルールを守りたくないのではなく、自分が必要と思うことは守ります。

 ある中年の社員なのですが、彼は製品切り替え時の清掃については、室内の移動できる什器を全て室外に出し、ルール通り室内を徹底して清掃します。それは感心なのですが、先日、その什器や器具を乗せるのに、ゴミ出し用の台車を使用しているのを発見しました。

 

 この事業所では、ゴミ台車は外部のゴミ置き場に持ち出すため、作業エリアではエレベータホール内の決められたゴミ集積場で保管・管理するルールになっています。台車自体は製品や原料を乗せるものと同じなのですが、黄色いテープを貼って区別しています。

 この事業所は、粉類を扱う完全に乾燥した環境なので、ゴミと言っても乾燥したものばかりで、台車がゴミで汚れることはありません。でも、収集会社が取りに来るまでは外部で放置されるので、外部の汚染を受ける恐れがあります。また、黄色いテープがかなり古くなっていて、破片が落下する危険があります。

 年末の繁忙期を迎え、場内用の台車が出払ってしまい、使えるものが見当たらなかったからゴミ台車を使用したようですが、積み替えれば使える台車を捻出できます。彼にそのことをお話ししたところ、前のセリフが返ってきました。

 

 もう一つが、ルールが大切と思っていても守れない人です。前者が、理解していてやらない人なら、この人はルールは理解しているけど、自分に起こる状況がルールと結びつかない人と言えます。

 例えば、「食中毒が疑われる症状(嘔吐、下痢、発熱)があった場合、医師の診断を受け、食中毒ではないという確認ができるまで出社しないこと。」というルールがあるのですが、実際にこの症状があり仕事を休んだ翌日に、病院にも行かず出社してきてしまうという人がいます。聞けば家族にも同じ症状があるとのことで、医師の診察を受けるように言って帰って貰いました。

 ルールを教育するときは理解しているようでも、実際に自分に起こる状況とルールを結びつけられない人もいます。また、ルールがあるのは分かっていても、いざ行動をする際にそれを思い出せない人もいます。

 このような場合は個人の特性に関係する場合がありますので、その都度、そばにいる人が修正してあげる必要があります。

 

 どのタイプであっても、ルールを守ることが自分の利益と直結していると感じると、決して忘れず実施することができます。

 この事業所で、「トイレの個室に入る前に作業服を脱ぐ」というルールを導入した際、時間がかかるとか、下着でトイレに入るのは嫌だとかの意見で猛反発を受け、誰も実施しませんでした。

 でも、ある日気分が悪くなった作業者がトイレで嘔吐したことが明るみになり、トイレでの病原菌への感染について、自分達の問題として捉えるきっかけとなりました。そして、それ以来、なんの文句もなく作業服を脱いでトイレに入るようになりました。

 

 実際に品質管理として製造現場に向き合い続けていると、問題が山積みで頭を抱えたくなることもあります。何より、自分のいたらなさを思い知らされ毎日です。でも、これこそ向上するための原動力になるなと、今の環境には感謝しかありません。

 そして、そんな私は今、事業所全体でルールを守るためには、ルールは本当に必要なことだと、実施する人に認識してもらうことに尽きるなと思っています。