今勤めている工場は、乾燥したごまやきな粉、穀粉類や乾燥海産物など、乾いた食品の小分けを行っています。
今回の食品衛生法の改正で、食品によるボツリヌス被害防止対策のため「密封包装食品製造業」という製造許可が追加され、その猶予期間が2024年2月に終了します。
この工場では、乾燥した小エビの自動充填包装機による小分けが密封包装食品業の対象となってしまいました。それまでに営業許可を取得しないといけません。
原料として仕入れる乾燥した小エビは加工品であり、この工場では製造者からバルクで購入・入荷した乾燥えびを、小袋に小分けするだけの作業を行なっています。
密封包装食品製造業の許可を得るためには、必要になる施設基準があります。隔壁で覆われた専用の作業室があること。作業室の中に手洗い設備と器具洗浄シンクがあることです。
今までも営業届出により食品の小分けを行なっていました。
この施設はアレルギーのコンタミを防ぐ目的で、作業エリアをいくつかの作業室に分けています。そこに自動充填包装機と金属探知機・梱包ラインを配置して、バルクで仕入れた食品を、消費者に販売する個包装に小分けしています。
この施設は、工場入室前にサニタリー室があり、手洗いシンクと器具洗浄シンクを設置います。
ローラー掛けをしてサニタリー室に入り、手を洗い、エアーシャワーを通って、再度ローラー掛けを行い、各作業室に入室していました。エアーシャワーと作業室にはドアがあり、手でドアノブを開けるようになっています。
もちろん作業室で食品に触れる際には、ニトリルラテックスの衛生手袋を着用し、アルコール消毒をして殺菌しています。
しかしながら保健所の見解では、手洗い後にドアノブに触れることが手の汚染につながるため、作業室の中に手洗いシンクと器具洗浄シンクが必要になるというのです。
作業室は狭く、原料や製品のケースなどを入れると、部屋一杯になってしまうところに、手洗い設備と器具洗浄シンクの設置が必要と言われても、乾燥した食品を扱うラインのすぐそばで水を使うことが、食品の水分上昇や、施設の湿度上昇によるカビなどの発生を招く危害について説明しても、全く聞く耳を持っていない状況です。
今までも食品衛生監視票が必要なため、保健所から毎年監査を受けていて、食品衛生監視表での評価が100点であった施設なのですが、これまで使っていた入場時のサニタリー設備や器具洗浄シンクは、製造許可取得に対しては認められないとのことです。
他の取引先や防虫管理業者の専門家に相談しても、包装室の中に水回りを持ち込む危害について同じ意見を得られるのに、保健所の担当者は、壁に仕切られた中に手洗い設備と洗浄シンクがないと、営業許可は出せませんの一点張りです。
基本的に食品衛生法でも、県の条例においても、営業許可の施設基準に、「手洗い後にドアノブを触る場合は、室内に手洗い器と洗浄シンクが必要」という文言はありません。しかしながら、営業許可取得の施設基準として、保健所ではこれまでそういう指導をしてきたし、この会社にだけ手洗い設備なしで許可することはできませんと繰り返します。
食品衛生法は古い法律です。現在の食品工場では、色々な作業工程を一人が実施するのではなく、盛り付けや包装など、一つの工程を延々と行います。このため、同じ食品を扱う作業中は、時折のアルコールで手袋の表面を消毒する程度で、十分にその衛生状態を保つ事ができます。
むしろ、作業中に手袋を外したり、その場で手を洗ったりすることは、かえって食品や環境を汚染することになりうるため、衛生的なことではありません。
以前のお仕事で、色々な工場の衛生点検を行っていました。実際に同じように手狭な作業場で(例えばケーキやサンドイッチの盛り付けなど)、営業許可取得のため、作業室内に手洗い器を設置している所は多くありました。もちろんどこも、狭い作業室内で手洗い器を使用しておらず、手洗い器の汚染や、手洗い器由来の衛生害虫対策に苦慮していました。
手洗い器は、U字トラップの封水が干上がってしまうと、下水からゴキブリなどの侵入につながりますし、排水管に汚れが溜まると、ショウジョウバエなどの発生につながります。設置した手洗い器の排水溝に栓をして、テープで封印し、手洗い器に汚れがつかないように、カバーをかけておき、保健所の監査の際だけカバーを外すのです。
以前、食品衛生規範に、手洗い時に爪ブラシを使用するように明記されていました。
汚い爪の間を洗うブラシを、作業者が使い回すのですから、衛生的に管理できないことは明らかなのですが、爪ブラシがない場合は保健所から厳しい指摘を受けてしまいます。
当時は、仕方なく爪ブラシを設置するものの、衛生的な管理が難しい爪ブラシを、なんとか衛生的に保つため、これも涙ぐましい努力をしていました。今ではこの爪ブラシの記述は、食品衛生関連の文書から全て姿を消し、むしろ爪ブラシは使わないように保健所から指導されるようになっています。
過去には当たり前に行われていた衛生対策が、現在では、逆に不衛生であるとわかることもあります。
以前は風邪にはうがいが推奨され、食品工場では「うがい器」を設置しているところも多かったのですが、新型コロナウイルスパンデミック以来、唾液の飛散を伴う「うがい」は危険な行為になっています。
本来、それぞれの施設と製造品目や製造工程を考慮して、ふさわしい作業環境を考えるべきですが、法律がある以上、それを前例通りに守る事が、公務員として重要なのでしょう。今回のケースでも、「製造室内に手洗い器を設置するか、設置しないなら営業をやめるか、どちらかです。」と言われてしまいました。
結局、作業室のドアをドアノブのない形スイングドアに変更し、手洗い、エアーシャワー、粘着ローラー後、作業室入室までの場所に手洗いと器具洗浄の設備を設置しました。これでなんとか営業許可をいただけましたが、300万程度の経費がかかりました。
最近百貨店の鰻弁当で、大型の黄色ブドウ球菌食中毒が発生しました。
もちろん飲食店営業等百貨店の営業許可で出店していたのですから、ブースに手洗い設備があったはずです。でも、黄色ブドウ球菌は手の傷に繁殖していることから、手洗いでは防ぐことができません。
法的に一定の施設基準は必要だとは思います。しかし、法律があるからと、すべての営業にそれを当てはめるのことは無理があると思います。真に食品事故を防ぐためには、取り締まる担当者が食品危害に対する知識を持って、施設設備や食品ごとに安全を考慮して対応することが必要ではないかと思われます。
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