· 

ロット検査で抑えられない危害


 今回の小林化工の事件では、医薬品の製造工程はよく分からないものの、水虫薬の計量・混合した薬剤を錠剤に成形する際に、最後に量を足すために、別容器から追加したものが、睡眠導入剤の成分だったという内容であったと思います。もちろん、そのような工程は厚生労働省に届けられた工程ではなかったとか。

 製造当時に決められたロット検査を実施していましたが、検査結果は異常なしであったとの事です。

 

 私にも、検査はしていたのに異常が発見できなかったという、苦い経験があります。

 それは、パラレルラインで製造していた二種類のゼリーで起きた事故です。片方は乳デザート、片方は果汁デザートで乳は含まれていませんでした。乳デザートの調合が先に終わり、タンクの液が充填ホッパーに送られた後、配管に残った液を手動でホッパーに流す際に、配管を隣の果汁デザートのホッパーとつなぎ間違え、製造中の果汁デザートの充填ホッパーに乳デザートの液が入ってしまったのです。

 

 検査は、バッチ毎に最初の製品をサンプリングして実施していました。しかしながら、混入が発生したタイミングがロットの中程であった事、混入が一時的であった為、次のロットまでには流れ切ってしまっていたことがあり、pHや色調や官能が全ったく異なる二つの製品であるにもかかわらず、検査結果では差異が認められませんでした。

 後日、消費者から味がおかしいというクレームがあり事故が発覚しました。このゼリーは市販されておらず、取引店から直送の製品であった為、出荷先に回収を依頼し、幸いなことにアレルギー物質による健康被害には至りませんでした。ですが、処理が終了するまでの間の不安と恐怖は忘れられません。

 

 当時、HACCPで危害分析をした際に、この工程は表に出ていませんでした。作業しているメンバーは、手動で液を送るという作業について、そこにある危害を誰も認識していなかったのです。

 自動で制御されているラインでは、ほとんど間違いは起こりません。しかしそこに手動による工程が入ると、間違える危険が発生します。

 このクレーム後、手動の工程を洗い出し、誤混入防止対策を実施しました。結局は、配管に残った液は廃棄し、パラレルラインでアレルゲンの異なるものを製造しないようにし、再生品を調合タンクにリリースするのも禁止にしました。

 これはかなり昔の話ですので、今では食品廃棄物処理の問題がある為、もっと良い方法がとられているかもしれません。

 

 ロット検査のロットの定義は、同一の原料を用いて均一に混合されたものを指します。小林加工のように、後で違うロットの製剤を注ぎ出しすると、ロットが混じってしまうわけで、そもそもロット管理が成り立っていまません。

 しかも、この製法は製造サイドで勝手に行われているものだったとすると。品質管理担当者が周知していなかった場合、危害の存在すらわからないことになります。

 そんなことは考えられないと思われるかもしれません。しかしながら、製造工程には見えない部分があり、そこに存在する危害は、実際作業している者には、感じ難くなっていることもあるのです。

 この機会に、自社でももう一度、品管の目で製造工程を見直してみるのも必要なことかもしれません。