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HACCPの最終着地点とは


 毎年、原材料の取引先に「製品証明書」の提出を依頼しています。今年から、その書式の中にコンプライアンス確認項目として、「HACCPへの取り組み状況」という欄を設けています。

 先日、ある取引先の品質管理担当者から質問があり、「今取り組み始めているんですが、どこまですれば、HACCPを実施していると言えるのでしょうか。最終着地点を教えてください。」と言われました。

 

 今回求められていることは、食品衛生法施行規則第66条2の第1項、第2項(別表17、18)に示された項目に対する対応を文書化し、実践して、必要な記録を取り、確認することです。このことでHACCPを実施している言えます。さらにHACCPは一度作ったら良いのではなく、新製品を始める前や、クレームや品質事故が発生した際には、問題点を確認し、改善し、実施して検証する必要があります。

 また、問題なく製造できている場合も、記録やデータを検証し、改善の必要性を考えると言う、会社をあげた改善の取り組みにすることが大切です。つまりはHACCPの活動に最終着地点はないのです。

 

 一時は外部認証を取ることが、HACCPを実施している証明の様に考えられていました。

 ですが、HACCPの認証には多額の費用がかかり、これを推奨し、優遇することは公正な取引を考えた上でも問題があります。今回は法律の改正による、食品関連事業者全体に向けた取り組みであることを考えると、HACCPを実施するために正当な品質の食品を扱っている事業者が、営業が困難になると言うことは避けるべきです。

 

 ただ、HACCPの概念に則って、原材料や工程で考えられる危害の全てを確実に防止するためには、ある程度の施設や設備が必要です。古い施設や設備に頼っている中小零細企業では、正確な温度管理手段や、異物の探知機を持っていないところもあります。さらに、危害を分析したり、その危害についてどのような防止対策が必要か検証すると言う、専門的な知識を持ち合わせていない場合も多いと言えます。そのような現実を棚上げにして、独自の 衛生管理システムを構築しなければならないことは、中小企業の品質管理担当者には荷の重い作業です。

 

  お上の予定では、地方自治体が勉強会や施設の監査などにより、HACCPに関する教育や相談に当たることになっていました。しかしながら、新型コロナウイルスの脅威により、外食産業を主とする食品業界全体が、営業困難な状況になっており、集合したり、訪問したりすることもできない状態が続いています。

  そんな中、法律の猶予期限だけは決まっているため、結局、形式だけを整える傾向になっている気がします。HACCPが制度化した今年は、食中毒が減るどころか、工場由来の食品事故が増えているような感さえあります。

 

 日本のHACCPが法制化された折角の機会です。今まで食中毒や重大事故がなかった企業でも、それに安心するのではなく、一度工程中で考えられる危害の確認をしてみましょう。そして、それを防止するための方法が、現在実施している方法で十分なのか、実際の作業を見ながら検証してみることが、きっと企業を守る大切な機会になるでしょう。

 また、一般的衛生管理を構築することは、クレーム0や、食品ロス対策を含め、企業の信頼性を高め、新しい売りになるはずです。

 改善に対して積極的に取り組む。この企業の姿勢がHACCP実施の最終着地点であると思います。