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食品企業品質管理のコロナウイルスとの戦い方


 今回の新型コロナウイルスは、感染力的にいうとインフルエンザと同等とのことです。一人の感染者が出たからと言って、密着、密集、密閉環境など、感染しやすい状態がそろわない限りは、一度に多数への感染が起こることはないと言われています。

 

 食品製造業ではこれまで、鳥インフルエンザや豚インフルエンザ、サーズやマーズ、ノロウイルス の大型食中毒アウトブレイクという感染症が起こるたび、従業員の健康チェックや発熱者の出勤禁止などの対策を講じてきました。ですので、既に大体のところが37.5度以上の発熱、下痢、嘔吐がある人は出勤しないようなルールになっていると思います。

  しかしながら、今回の新型コロナウイルスは潜伏期間が10日程度もあり、その間に人に感染することが知られています。これは今までの感染症と違い、発熱者を出勤停止にするだけでは防ぎきれないと言うことになります。

 

 ウイルスはアルコール感受性ありで、感染の形態は飛沫感染と接触感染です。巷では早い時期からマスクとアルコールが品薄で、入手が困難になりました。マスクを購入するにも世界同時発生のため輸入のマスクが入ってこず、病院ですら不足が報道されていて、かなり高いマスクを買わなければいけなくなったところもあるようです。

 小規模の食品事業者では、衛生機材をインターネットで注文しているところが多いかと思います。大手の衛生機材屋では一回の発注ロットが大きいため、小口で買えるインターネットは便利なのです。ですが、こういう非常時には、インターネットでは一気に購入できなくなってしまいます。

 以前、鳥インフルエンザ流行の時に、大手機材屋と取引がなかったため、衛生機材を回してもらえず困った経験があり、今回の流行が中国で始まった時点でマスクは多めに購入し、他の衛生機材は大手の衛生資材屋と取引を始め、なんとか不足せずに済みました。非常時の対応は早いほうが良いと言うのが私の教訓です。

 

 工場内の感染対策についてですが、通常大手の食品工場では機械化が進んでおり、人もまばらで空調も良いため、さほど三蜜の問題はないと思います。しかしながら小規模事業所では、作業所内の人の密度が高く、窓や扉は閉鎖していて、換気の悪いところも少なくありません。くしゃみや咳、大声のおしゃべりによって飛沫が発生した場合、相互感染につながる恐れが出てきます。 

 今の事業所では非常事態の特例として、網戸のあるところでは窓を空けて、換気扇を回し、できるだけ空気が通るようにしています。その上で、工場内ではマスクを取らないことと、作業中のおしゃべりはしないように指導して三密の状態を回避しようとしています。

 

 最も問題になるのは昼の休憩です。休憩時間を分けたり、間隔を開けて座ったりしているところが多いと聞きますが、食堂内でお喋りすると飛沫が充満する恐れがあります。そこで、食事中の会話は控えるよう指導し、食後マスクをつけてからも、大声を出さない程度の会話をお願いしています。また、この会社ではほとんどの社員が車通勤のため、昼は車や屋外で食べるようにお願いしていて、食堂で食べる人の数を減らしています。

 工場内での三密発生対策にこだわるのは、感染者が出た際の保健所の確認で、マスクを取って至近距離で会話した場合に濃厚接触者に認定されると聞いたためです。濃厚接触者に認定されると、2週間の経過観察が求められます。工場の稼働を止めないためには、濃厚接触者を作らないことが大切なのです。

  仕事に来ている人が全員陰性者と分かっていたら苦労はありません。しかし、いつ感染するか分からない以上、自分は感染者かもしれないと考えて行動することが大切です。

 

 このウイルスの三蜜以外の伝搬ルートが、トイレを起点とした接触感染です。実際にトイレでの手洗いなどの不徹底による感染が発生しているとの見解もあります。

 トイレでの感染対策については、ノロウイルス対策としてお話ししていますが、最も重要な汚染は手と袖口に発生します。

 トイレに入る前に作業服(特に上着)やエプロンは脱ぐようにしましょう。できない場合は袖を肘まで巻き上げますが、トイレの中では至る所にウイルスがいると思わなければいけません。脱ぐことが一番汚染を免れる方法です。もちろん、脱いだ上着は手を洗ってから着用します。手を洗う時も手首から先は二度洗いで洗うように教育しましょう。

 ドアノブはアルコールで濡れた手で触れるようにすると、毎回消毒することになるのでむしろ好都合です。ドアノブのそばにアルコールスプレーを置いておきましょう。

 

 今必要なのは会社を挙げてコロナウイルスと向き合うことです。そのリーダーになるのは、社長であり工場長。組織のトップでなければ一致団結できません。会社は従業員を守り、従業員の家族を守る立場であってこそ、従業員も真に指導に向き合うことができるのです。

 品質管理担当者がなすべきことは、会社のトップに向けて、最新の情報と対策となる方法を提供し、実施できる環境を整えることが大切になります。

 

 人の健康を守る食の供給が滞ることは、社会の不安につながります。原料、加工、製造、輸送、販売、フーズチェーンのそれぞれの部署で、どうすれば安全に仕事が続けられるか、考えて実践することが今なすべきことです。それこそが、この後に来るどんな状況にも、立ち向かう力になるはずです。