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包装食品とカビの発生


 カビの発生による自主回収の中で、圧倒的に多いのがフィナンシェやパウンドケーキ、饅頭などの菓子類です。

 これらは通常なら水分活性が低く、腐敗しにくい食品にあたります。町の製菓店では無包装で陳列販売していますが、当日か翌日の消費期限内に食べるのなら、多分なんの問題も発生しないでしょう。

 しかしながら、買って帰って常温で放置していると、食品の表面に付着したカビの胞子が成長して、数日で目に見える劣化が始まります。

 

 特に管理されている無菌的な環境以外、一般的にはカビの胞子が全くいない環境は考えられません。食品の表面にカビ胞子が一つでも付着すると、食品の水分や糖質などの栄養により、急速に可視的なコロニーに成長してしまいます。

 カビを抑えるハードルには、酸素、水、アルコールなどがあります。食品にカビ胞子が付着してもそれを増殖させないためには、食品をラミネート包材などで密封し、中にこれらの環境を整えるための品質保持剤を封入する方法が考えられます。

 近年、これらの包装技術の革新により、これまでカビが生えやすいとされていた、半生菓子や餅のような食品においても賞味期限を飛躍的に伸ばすことができるようになりました。販売期間が伸びたことで、遠隔地にも販売を拡大でき、常温でしっとりした食感を保った製品を提供することが当たり前になっています。

 

 当然ながら、これらの食品においては、保存条件が一つでも崩れると、カビや微生物による品質劣化が始まります。例えば、ピンホールや密封不良、袋の材質と保存剤の不一致などが原因としてあげられます。

 

 袋の材質は、酸素、不活性ガス、水蒸気などの透過性、配送強度、凍結の有無など、求める条件により適したものを選択する必要があります。また、品質保持剤も、脱酸素剤、アルコール蒸散剤、乾燥剤など、食品によって適切な物を選択しなければいけません。

 これはそれぞれの専門的な知識を持つメーカーに相談することが確実ですが、任せっきりにしていると、思わぬ事故につながることがあります。

 実際に製品を販売する前に、包材や保存剤を使用して、製品の保存テストを行うことは大切なことです。

  保存テストを行う際に問題になるのが、テストでは実際の製造時の品質を再現しきれないということです。製造ロットや製造工程は再現できても、現実に現場で起きる、環境や手順のばらつきについて、全てをテストすることは難しいからです。しかし、カビにおいては、このばらつきこそが汚染に重要な意味を持ちます。なるべくいろいろ条件を変えて、回数を重ねてテストを行いましょう。

 

 HACCPでは食品の安全に関わる重要な項目について、管理条件の限度を決めて安全性を確保します。ですが、カビは食中毒菌ではないため、危害物質の対象ではありません。

 しかしながら、紅麹カビ製剤によるカビ毒の問題が発生し、あまり認知されていないカビ毒が存在することを知るきっかけとなりました。

 通常の製造現場では、冷蔵庫のパッキンや水回りなどのちょっとしたカビの発生は、どこでも見られる光景です。しかしながら、このカビがカビ毒につながるものか、危害を判定するのは大変困難です。このことからも食品の品質管理上、カビの制御に関する対策はとても重要だと言えます。

  

 他にカビによる自主回収発生が多い食品としてジャムがあげられます。瓶詰めのジャムは糖度が高いため水分活性が低く、果物を使用した製品ではpHも低くなっています。一般的には微生物が繁殖しにくい食品の一つです。

 なのにカビの発生が多い理由は、瓶詰めという包装形態によるものです。瓶詰めにした際、内容物と蓋の間に空間ができます。加熱殺菌の際、このヘッドスペース内は乾熱状態になるため、通常のカビの死滅温度では十分な殺菌ができない可能性があります。また、水分の少ない食品は加熱時の対流が少ないため、殺菌槽内での内容物の温度上昇が、水分が多い製品とは異なることが考えられるのです。

 もちろん、ジャムにする過程で十分な加熱は行われているはずですが、カビの胞子は色々なところに付着している可能性があります。瓶や蓋に付着したり、充填時に食品に入り込み、たった1個が生き残っただけでも、目に見えるコロニーに成長してしまうのがカビの恐ろしさです。

 

 カビから食品を守るため、まずは食品にカビを付着させないことが大切になります。

 エアコン内に付着した結露にカビが発生していると、沢山の胞子を作業環境に飛ばしてしまいます。エアコンを含め、作業場内の清掃を定期的に行うことは、カビだけでなく、防虫の面からも重要なことです。

 製造装置や器具については、このHPで繰り返しおすすめしている、次亜塩素酸Naを含む泡洗浄が効果的です。

 

 原材料にカビが含まれていると、製品への残存や二次汚染に影響が出ます。生鮮原材料にカビが繁殖している場合は、洗浄だけでは除去できません。原料仕入れの際、カビの生えた食品を受け入れないのはもちろんですし、仕入れた原材料は適切な温度で保管し、速やかに製造に使用するルールを徹底しましょう。

 香辛料や果汁やピューレなどには、カビの胞子が多く含まれている場合があります。使用する原料の品質検査を実施して確認すること。できれば細菌フリーの原材料を選ぶことも推奨されます。

 

 加熱殺菌条件については、カビには色々な種類があり、耐熱性胞子を形成するものもあります。pHで生育を抑えられないこともあるため、一般の細菌を抑えるのとは異なる場合があります。

 カビの危害防止のためには、加熱条件に加え、適切な品質保持材や包装技術の導入の検討が必要になります。

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コメント: 1
  • #1

    松村尚麗 (火曜日, 11 10月 2022 11:39)

    長年、焼き菓子マドレーヌを作って来て、
    約一週間、常温のままで置いていました、
    初めてカビが発生致しました。
    今は10月、暑いや寒いや色々ありました。
    以後の参考にさせて頂きたいと思います。
    大変勉強になりました。
    ありがとうございます。