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大腸菌群と大腸菌


 最近行った製品の微生物検査で、ある製品から大腸菌群を検出しました。その製品は乾燥した穀粉で、本来大腸菌群の規格などはありません。

 今お世話になっている工場では、穀粉の25kg袋を仕入れ、それを小分け包装して製品化しています。全く調理・加工のない工程です。乾燥した食品を扱う、乾燥したラインで、工程で大腸菌群に汚染するポイントが見当たりません。

 さらに、この原材料である穀粉の原材料規格書には、「大腸菌群 陰性」と表示されていました。

 穀粉にこの規格は必要かと思いますが、穀粉の製造工程に100℃の熱風による乾燥工程があり、完全に乾燥させる間に大腸菌群は死滅すると言うことで、この基準にしているとのことでした。

 

 私がこの商品の大腸菌群を検査した理由は、この商品が消費者が直接食べる可能性がある食品だからです。この製品は、粘着性ある食材の表面に塗布して使用するもので、生菓子への使用もあるかもしれない食品です。ですが、穀粉には食品衛生法的に微生物基準があるわけでなく、大腸菌群が検出されても問題はありません。むしろ、原材料として仕入れた食品が、メーカーが保証する品質を逸脱していて、それを知って商品化すると言う自社のリスクをどう考えるかが問題になります。

 私はそのことを社長に伝え、メーカーの見解を聞いてもらうことになりました。

 原材料メーカーの社長I氏が言うに、「今まで、自社製品から大腸菌が検出されたことなどなかった。」「年末特需の製品なので、今年は少し安い原料を始めての取引先から引きました。」「その原材料が汚染されていたのではないかとおもいます。」「原料も製品も検査はしていなかったけど、今原材料の納入者に問い合わせています。」

 私:「いえ、大腸菌ではなく大腸菌群です。法的に問題があると言ってはいません。むしろ、原材料規格書にうたわれている基準が妥当かと言うお話をしています。メーカーとして、この製品を弊社が使用して安全だと言うことを証明していただければ結構です。」

 

 話は延々と堂々巡りしました。しかしながら、原材料が本当に悪かったのなら大問題です。

 その場では、米トレーサビリティー法上の問題がないか確認していただくことと、大腸菌群を検出しない原材料を使った製品を納品することをお約束して終わったのですが、翌日届いた穀粉製品の微生物検査を行ったところ、大腸菌群が検出されました。

 結局は自社工程に汚染があったのか、汚染した製品からの切り替え清掃が不十分で、汚染した前回穀粉が新しい製品を汚染したか…結局I社長は、再度清掃を実施して大腸菌群の検出されない食品を納品することを約束されました。年末商材でこの遅れは、納期の調整が必要になり、自社にとって大きなロスになります。

 

 大腸菌群はどこにでもいる細菌です。特に、水分と食品成分が残存しているような箇所には相当な量が存在します。今回のラインを見たわけではありませんが、穀粉が清掃不良箇所で腐敗している可能性も無きにしも非ずです。多量に汚染した場合は、乾燥工程で生き残ることもあるかもしれません。

 大腸菌群は生野菜や果物には必ず検出されると行っても過言ではありません。また、これを食べても、お腹を壊すということはまずありません。今回の場合も、穀粉の製造者が保健所に相談したところ、穀粉から大腸菌群が出ることは仕様が無いことでしょうと言われたそうです。

 もちろん私もそう思います。でも、これが生菓子に使用され、保健所の買い上げ検査で大腸菌群が検出されると、食品衛生法に則って回収命令となってしまいます。

 

 潔癖症の日本人にとって、食品の衛生基準に大腸菌群を採用する意義は色々あるのだと思います。ですが、諸外国では、腸内大腸菌を基準として使用しています。

 実際、クリスマスシーズンにイチゴの乗ったケーキが、検査で大腸菌群陽性になり、販売できない例も起きています。私が以前勤めていた工場で、アイスクリームの製造をしていた時、「大腸菌群10個/g検出」のおかげで、ロットが全て廃棄になったこともありました。

 どこにでもいる細菌の大腸菌群。実際に衛生上あまり意味のないこの菌群のおかげで、食品廃棄が膨大になっている一面があることを忘れてはいけないと思います。