· 

チョコレートで乳アレルギーを起こさないために


  自主回収の発表があったのは、昨年9月、10月に新発売された、ロッテのチョコレート「ポリフェノールショコラ〈カカオ70%〉」、「乳酸菌ショコラ カカオ70」。検査の結果、乳アレルゲンが自社基準を超えて検出されたため、発売開始以降の全商品、約40万個を自主回収するということです。

 これまでの間に、7件もの健康被害を引き起こしたこの事件は、新表示法の指導により、起こるべくして起こった側面があると私は考えています。

 

 この発表についてロッテのホームページでは、「この製品には乳製品を使用していないものの、乳を含む製品と同じラインを使用して製造している為、箱には注意喚起表示を行っていた。」と記されています。その上で、実施した検査(今年4月)の結果、自社基準を超えた乳アレルゲンが検出されたことを理由に回収を実施するとしています。

 昨年の11月以降7件も健康被害を出しておきながら、また、検査結果で自社基準を超えていることを知りながら4ヶ月間も販売を続け、なぜ発表が8月まで遅れたのでしょうか。これはには新表示法の解釈による責任の所在探しに、時間がかかった側面があるのではないかと考えられます。

 

 そもそも、チョコレートは他の食品と比べ、特に乳アレルゲン制御が難しい食品であることをお伝えしなくてはいけません。

 チョコレートはカカオバターに糖分、カカオマスが安定的に分散した状態の混合物です。ミルクチョコレートはここに全粉乳が含まれています。脂が主体のこの食品は、水が混入することを極端に嫌います。もちろん、製造ラインは水洗いできませんし、一度ラインを水洗いしてしまうと、完全に水分を乾燥させるまでラインを使用することができません。そして、乾燥したとしても、粘度の高いチョコレートが、ラインをうまく流れるためには、多量のロスを覚悟する必要があるのです。

 大体の製造工場ではミルクチョコレートもスイートチョコレートも製造しており、同一ラインを使って充填までの作業を行なっています。この時、水で洗えないラインは、次のチョコレートで前のチョコレートを押し出す、共洗いという方法で切り替えを行います。このため、ラインの使用は色の薄いものから行うのが普通で、ホワイトチョコレートやミルクチョコレートなど全粉乳を含むチョコレートの後にスイートチョコレートを流すので、乳成分がスイートチョコレートに混入してしまうのです。

 

 チョコレートの製造は、海外ではベルギーやフランス産チョコレートは品質が高く、日本やスイスにも大手の製造所が存在します。日本の菓子製造業で、カカオ原料からチョコレートを製造しているのは、超大手に限られます。それ以外のほとんどの施設では、これらのチョコレート会社の製菓用チョコを原料として購入し、自社で融解して、テンパリングと呼ばれる安定した乳化状態に整え、チョコ型(モールド)に充填して冷却固化して製品化しています。

 先にご紹介したように、輸入品にしろ国内産にしろ、原料チョコの段階で、すでにかなりの量の乳アレルゲンが混入しています。たとえ製品に全粉乳を配合していなくても、十分アレルギー反応を引き起こす程度の乳アレルゲンが含まれているため、それらのチョコの原材料表示には、「全粉乳」を記載していたり、「(一部に乳成分を含む)」と表示されています。

 これらの原料チョコを使用する場合は、自社で使用していなくても、乳アレルゲンの表示を行うことができるのですが、問題は自社でカカオ原料からチョコレートを製造している場合です。

 

 従前の表示法では、たとえ配合されていない場合でも、コンタミネーションによる混入で数ppm以上のアレルゲンの混入がある場合は、一括表示内に記載すべきとしていて、説明会でも明確にそういう指導がありました。たとえ枠外の注意喚起表示に記載していたとしても、アレルギー症状が引き起こされた場合は、食品衛生法違反であるとも明言されていました。

 ところが新表示法では、基本的に洗浄によるコンタミネーション防止対策を実施することを前提としており、原材料表示には使用していない物質を表示しないように指導しています。ですので、チョコレートについても、使用していない全粉乳を表示に入れることができなくなっているのです。そのため、(一部に乳成分を含む)という表示になるのですが、これの場合、消費者はごくわずかな混入であると捉えかねないため、アレルギー症状の発生につながる恐れが考えられるのです。

 

 そして、新表示のQ&Aでは、洗浄してもコンタミネーションの恐れがある場合は、注意喚起表示を推奨しています。

 多分、今回の場合、ロッテでは新表示に従って表示をしているのだから、自社に責任はないと考えていたのだと思います。しかし、チョコレートは誰もが好む嗜好品です。アレルギーを持っていても食べたい人は、注意喚起表示くらいならそれほど多量の混入ではないだろうと考えるでしょう。今回のチョコレートで7件も健康被害を出した原因は、消費者にとって必要な表示がなされていなかったことに他なりません。

 

 このような事故を避けるためには、チョコレートについては他の食品と違い、乳アレルゲンの表示についての特別なルールが必要です。

 たとえ原材料に乳成分を使用していない製品でも、乳を含むものと同一ラインを使用している製品には、「全粉乳」の表示を義務付けるべきです。そして、特にチョコレートの、切り替え時の洗浄ができないラインで発生するコンタミネーションを、注意喚起表示の対象から除外すべきです。そもそもチョコレートの表示については、消費者庁では管轄外の対応になるため、「チョコレート類の表示に関する公正競争規約」に明記すべきです。

 もちろん、アレルギー対応のため、厳密にラインを分けて製造しているチョコレートも存在します。だからこそ、特別な表示が必要なのです。

 

 なんのためにアレルギー表示をこれほど細かく実施しているのか。それは消費者の健康被害を防ぐためです。チョコレートについては、現行の表示制度では不十分であると言っても過言ではありません。

 乳アレルギーをお持ちのチョコレート好きな方は、自分を守るため、チョコレートを選択する際、特に乳アレルゲンが含まれていないことを、明確に表示されているものを選べれるようお勧めします。

コメントをお書きください

コメント: 1
  • #1

    中山やすこ (日曜日, 05 2月 2023 13:24)

    パン屋さんのパンで困っております。数ヘイベイの小さな部屋で、いろいろな物を作って販売していますが、配合に入っていないからと、乳アレルギーの児童が食べると言って話しを聞いてくれません。たとえ洗えるものでも、飛散する粉乳。洗えない器具も多いのに、コンタミネーションの一言で済まされてしまっています。チョコレートの例もヒヤリハット集で見ていましたが、怖いです。低量で反応する方は食べない様にハッキリ記載すべきです。