私が衛生点検のお仕事をしていた時、ある一定以上の管理レベルをクリアーしている事業所には、必ず「さすがですね」と、賞賛の意を表すようにしていました。
前回の指摘について、自社なりの方法で改善されていたり、作業する人がその重要性を理解して適切な対応が取れていたり、担当者の努力が見て取れるときは、「さすがですね」のレベルです。費用をかけて最新の機器を導入していたり、使いやすいチェックリストを工夫されていたりするときは、「さすがですね」を欠かしてはいけません。
ですが実は、相手が大企業や老舗店で、相手にしてもらえず何も言わせてもらえない時にも、この言葉を嫌味で使うことがありますのでご注意ください。
点検日をお伝えして行う外部監査の衛生点検では、点検日時に合わせて事前に大掃除をされるところがほとんどです。しかしながら、検査員は清掃し残した汚染箇所や、清掃後に見落とされる不要物や破損品の存在から、その事業所の衛生状態や、危害になりそうな場所を把握することができます。
その上で、製品に品質事故が発生しないために、これからどのようなことに取り組む必要があるかをご提案することになります。清掃された努力に対しては「さすがですね」ですが、実際にはまだ取り組むべき問題があるのが一般的です。
私の場合、食品工場の品質管理だった経験があるので、「改善」することがたやすいことではないことを知っています。外部から見たら「何故?」と思うようなことも、実際作業している人には「MUST」なのです。
今勤めている工場でも、当初作業場内の床の上に、過去の作業記録がぎっしり入った段ボール箱が数個積み重ねて置かれていました。担当者は「時々しか製造しないアイテムもあるから、過去の記録がないと作業できない…」と言います。ですが、場所をとるし、清掃不良の原因にもなる。もちろん、外部監査の時は、段ボールが直置きされているだけで減点です。
古い日報を探すより、各アイテムの作業手順書を作ればいいですよね。でも、それができないからこんなことになっているわけです。
点検の際に色々とお話して改善方法を提案し、次回までに少しでも対応されている場合は、担当者の方の努力がうかがわれます。今まで点検を担当した事業所でいうと、社内で積極的に対応されて前向きに改善が進むところが1/3、言われたから、その時だけ対応するというところが1/3、全くそのままのところが1/3というところです。
この1/3の前向きに改善が進むところで「さすがですね」とお伝えすると、ほとんどのところで、残っている危害についての課題を口にされます。監査員としても、消費者としても、改善のモチベーションが上がったことを実感するのは、とても嬉しいしことです。その会社の製品のご贔屓になってしまう瞬間です。
対外的に評価されるためには、食品工場で今どんな管理方法がポップなのかを知る必要があります。ですがまた、ポップな方法が本当に有効な方法とは限らないこともあるので注意が必要です。
今の流行か、多くの食品事業所で「手洗いは30秒以上」と決め、タイマーを設置しています。ですが、本当は30秒洗うより、二度洗いの方がウイルス除去には効果があることが知られています。そして、食中毒に関連する、トイレの後に手に付着した汚れやウイルスに対しては、腕や手首を洗うことや、水で十分にすすぐ事の方が重要です。
残念なことに、手洗い場にタイマーがないことを指摘する監査員も多いのですが、本当に自社に必要なものを取り入れるようにしてください。
以前、衛生点検で訪れた惣菜工場で、下処理室と加熱室をつなぐ形で5mほどの細長い冷蔵室があり、生の仕掛品を台車で並べて保管していました。加熱前にそこから必要な仕掛品を加熱室に持ち出すのです。
見ると、その冷蔵室壁の中央部分にテープで仕切りがあり、反対方向に矢印が表示してあって、それぞれ「下処理」、「加熱」と書かれています。
「下処理も加熱も、衛生作業区分では準清浄区ですよね。ここを区分する必要もないし、実際区分しても守れないんじゃないんですか?」と聞いたところ、「前に、オタクの衛生点検に来られた方に言われたんですよ。私たちも意味ないと思ってます。」と言われました。
外部監査員には食品製造の経験や知識がない人も沢山います。
今流行りのHACCP関連の認定者や指導員の資格も、経験がなくても指定された大学学部の卒業資格でなれるものや、2、3日の研修で取得できるようなものなのです。監査員からの指摘内容については、本当に自社に必要な改善方法を、自分たちで考える力が必要になります。
その中でも、「さすがですね」と言ってくれる監査員は、他の事業所との比較ができる程度に経験を積んでいる人かもしれません。そういう人からは、いろいろ情報を聞き出し、助言をもらって、次の「さすがですね」を獲得するモチベーションにしてください。
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