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ルール・マニュアル明文化のすすめ


 以前、大手食肉製品製造業の工場に、衛生点検の仕事で出向いた時のことです。

 最初のヒアリングで、マル総の総括表を見せていただきました。加熱工程と金属探知機がCCPで、金属探知機の感度確認はテストピースをハムの上に乗せて通過させ、反応することを確認しているということです。

 実際に現場に行ってみると、金属探知機のテストピースはビニールのチャック袋の中に入っていて、丸いハムの上にテストピースを乗せた時、安定して流せるようにこの袋で巻くようにしているとのことでした。

 

 そこまで、ルールが守りやすいように考えて、準備しているところは少ないので、感心して見ていると、実際にチェックを行うパートさんは、テストピースの入った袋にハムを入れ、テストピースをハムの下に入れて袋を巻いて固定し、金属探知機を通していました。何度やり直してもらっても、テストピースをハムの下に入れるのです。

 同行されていた工場幹部の方に確認すると、「最初にハムの上に乗せるって教育したよね!」とパートさんに強くおっしゃり、パートさんは、「私は入社した時から下に入れるって聞いてます!」と、言い合いになってしまいました。

 

 この会社では、工場内に掲示物を貼ることを禁止しています。せめてテストピースの流し方のマニュアルが掲示されていれば、こんなことにはならなかったでしょう。素晴らしいルールはあっても、実際にそれを行うパートさんが使い方を勘違いしている場合、どこにも明記されていなければ、その間違いに気づくことができません。

 大切なCCP管理の方法を、入社した時に一度教育するだけでは、きちんと理解できているか甚だ不安です。この時は、チェックリストに確認方法を明記しておいてはいかがでしょうと提案しました。

 

 大企業で、ルールが完璧に明文化されていても、このようなことは頻繁に起こります。ことさら、ルールやマニュアルが整備されていない中小企業では深刻です。

 最初、社長が考えたルールは、社員が増える過程でどんどん変化していき、社長は自分の指導と違っていることを嘆き、社員は努力していることを評価してもらえず不満を抱えるのです。

 中小企業の社長さんにマニュアルを作ることの重要性をお話ししても、ほとんどの方が「うちのような小さい企業でそんなものは必要ない。分からなければ私に聞けばいいんだから。」とおっしゃいます。

 でも、社員は忙しそうな社長に声をかけるのをためらいますし、何度も聞くと「何度言わせるんだ!」と思われ、評価が下がると考えます。その結果、社長はいつも社員に不満を持ち、社員はヤル気を失って、社内の風通しがどんどん悪くなっていくのです。

 

 以前勤めていた会社で、「社員のレベルが低くて呆れるが、社員を教育して辞められたら損になる。社員は教育しなくても仕事してくれればいい。」ということを、社長に言われたことがあります。

 「でも、仕事のできる社員に、いきなり会社を辞められたら困りますよね。そうならないように、作業マニュアルだけでも作りましょう。社員から今の仕事のやり方を聞き取りして、明文化するんです。その時に社長が思うように作業しているか確認できますよ。間違えているところがあれば、社長が指導してあげてください。」と説得し、それぞれの作業の担当者を一人ずつ呼び出して、社長や工場長と従業員が膝を突き合わせて、社長も納得する作業マニュアルを明文化しました。

 そのマニュアルはただの箇条書きでしたが、新規従業員に仕事を教える際、教える方にも覚える方にもとても便利なツールでした。

 

 マニュアルの重要性が理解できると、色々なルールを明文化することに対して、受け入れやすくなります。

 従業員安全衛生マニュアル、機器の分解洗浄マニュアル、異常発生や災害時の対応マニュアルなど、外部の監査でも評価されるルールがどんどん浸透していきました。

 何より、従業員が、どうすれば社長が満足するのかが理解でき、安心して仕事ができるようになり、会社自体が風通しが良くなっていったのです。もちろん、外部からの評価も上がり、これが営業の武器となり、良いお仕事が増えていきました。マニュアルを明文化して従業員を教育することは、会社の利益になることなのです。

 

 もし今、あなたが、部下の能力ややる気に不満があるなら、ぜひ、ルールやマニュアルの明文化から、初めてみることをお勧めします。