従来マスクは、風邪や感染症にかかった人や医療従事者が、飛沫感染を防ぐために着用するものでした。最近では高品質な使い捨てマスクの普及により、花粉症やインフルエンザ予防など、外部からの有害な微粉を吸い込まないために、健康な人が着用するケースの方が多いようです。このように、マスクを感染症予防のために着用するとき、その取り扱いを誤ると、かえって感染しやすくなる場合があることをご存知でしょうか。
通常販売されている不織布のマスクは、歩く程度の運動時にも呼吸を妨げない密度のフィルターを使用しています。風邪やインフルエンザのウイルスは、このフィルターでは捕集できません。ですが、患者が近くでくしゃみや咳をした場合は、唾液の飛沫と共に空中に拡散するため、飛沫の大きさならマスクを通過しない可能性があります。
また、マスク内部は、あなたの吐息に含まれる水蒸気でコーティングされるため、湿った繊維にウイルスが付着して通過しにくい状態になっていることも考えられます。
外界からのウイルスや花粉を無事防除できていても、感染の危険はマスクを触る時に起こります。
フィルターであるマスクの表面には、ウイルスや花粉が濃縮した形で付着しています。特に汚染が考えられる、マスクの鼻や口に近いところを指で触れると、指に濃厚な汚染が発生します。その指で何かをつまんで口に入れたり、目や鼻をこすってしまうと、ウイルスの標的部位である喉に直結した場所に、濃厚な感染が起こることになるのです。
薄い感染なら免疫が機能して処理できる可能性がありますが、濃厚な感染の場合は発病リスクが上がることを忘れてはいけません。
マスクを扱う際は、耳掛け部分から外し、その後手指はきれいに洗浄しましょう。どんな時も、感染の原因は手指であることが多いため、手洗い前に目や鼻や口に触れると感染の危険が高まることを忘れないでください。
一方、食品関連企業でのマスクの着用は、唾液による食品汚染防止のためであり、また、鼻毛や口内異物の落下防止のために着用します。実際、唾液には腐敗や食中毒に関連する微生物も含まれています。作業者がマスクを着用したことで、食品の保存性が飛躍的に向上したという事例もあります。マスク着用については、下記のHPもご参照ください。
参考資料:文部科学省「調理場における洗浄・消毒マニュアルPart2 第3章 マスク、手袋等の洗浄・消毒マニュアル」
http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2010/05/25/1292018_07.pdf
異物混入防止については、私がチョコレート工場で勤務していた際、口腔由来異物のクレームが大変多く、その際消費者の方から「作業中に口から飛び出して混入したんじゃないか。」とのお問い合わせを受けることが多かったもので、「弊社では作業場内ではマスクの着用を義務付けており、作業中はマスクに触れないよう指導しております。」と説明するために必要でした。
色々な考え方がありますが、お客様に食べていただく食品を製造する者は、食品が唾液で汚染されないよう、マスクを着用する必要があるのではないかと私は考えています。
蛇足ですが、皆さんはくしゃみや咳をするとき、口に手を当てていませんか?
ほとんどの人がYESだと思います。ですが、あなたが感染症にかかっている時には、くしゃみや咳を受けた手指に大量のウイルスを含む唾液が付着することになります。これを服で拭った場合、服が接触する箇所に、そして、その後手指で触った全ての場所に、濃厚なウイルスを付着させることになります。
欧米では、くしゃみや咳は脇の間に向けてするように教育されるということです。脇の部分なら他を汚染する機会が少ないからでしょう。一度ついた癖はなかなか修正できませんが、今後、咳やくしゃみをする際に実行してみてください。
ノロウイルスの保菌者や、虫歯の膿に含まれる黄色ブドウ球菌など、気付かないうちに唾液に病原菌が含まれる場合があります。
食品に携わる人は、食品の直近で、おしゃべりやくしゃみ、咳をしないこと。マスクを着用し、マスクを触れた指は必ず手洗いし、アルコール殺菌することなどを、衛生ルールとして取り組みましょう。
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