作業場内に食中毒菌が持ち込まれる可能性として、3つのルートが考えられます。
1つ目は、原材料が食中毒菌に汚染されていた事により持ち込まれるルート。
2つ目は、使用する水(特に地下水)が汚染を受けていて、食品を汚染するルート。
3つ目は、食中毒菌を保有する作業者により持ち込まれるルートです。
原材料については、HACCPによる危害分析で、存在する可能性のある病原菌に対する工程のCCP管理により、安全に取り扱うことができるはずです。
水についても、井戸水や貯水タンクの管理方法を決めて、定期的に水質を確認することで安全を確保できます。
ところが、3つ目の作業者により持ち込まれる食中毒菌については、体調管理だけでは危害を防ぐことが困難な場合があります。それは、健康保菌者の問題です。
健康保菌者は身体的に症状はないのに、腸内には食中毒菌を保菌しています。そして、このような人により持ち込まれた病原菌を拡散し、危険性を拡大する起点が便所ということになります。
以前、学校給食のパンがノロウイルスに汚染されていて、多数の発症者を出したという事故がありました。その後の報道では、この事故があった施設の担当者には、ノロウイルスの症状を呈した人はいませんでした。手袋やアルコール消毒を行なっていても事故が発生した事例として、原因は特定されなかったと記憶しています。
今までにも何度か触れましたが、食中毒になっても、症状が出ず、体内に保菌した状態で、便に多量の食中毒菌を排泄する健康保菌者が普通に存在します。
特に焼肉屋さんで食事をした数日後に検便を実施した人に病原性大腸菌が検出されたり。また、食中毒になり、症状が治った後に数週間この状態が続くことも知られています。
特に、健康保菌状態であることは本人にも自覚がないため、便所は常に食中毒菌による汚染を仮定して、対応する必要があるのです。
便所の施設は、作業場内ではなく、作業場の外に設置されることが望まれます。作業場内にある場合は、便所の個室のドアだけではなく、二重のドアやビニールカーテンで、作業室と区切られていることが望まれます。そして、直接、便所から病原菌を含む空気が作業室に流れ込まないよう、便所内は換気扇などで空気を抜き、陰圧管理してください。
その上で、適切な方法で清掃する必要があるのですが、清掃する上で考えなければいけないことがあります。それは、清掃する人も濃厚な汚染を受ける可能性があるということです。
製造作業者が交代で清掃する場合、作業中や作業間に行うと、作業服や手指に深刻な汚染を受ける可能性があります。この場合は、トイレの清掃は作業終了後に行い、専用の作業服に着替えて清掃しましょう。
できればトイレやその他の共用施設の清掃は、食品の作業に従事しない、専用の清掃者を配置するようにしましょう。
トイレ設備で糞便由来の汚染を受ける箇所は、便座、便器内、ふた、洗浄コックなどで、他に、用便時の汚染した手指で二次汚染を受ける場所として、ペーパーホルダー、水洗コック、扉のドアノブなどが考えられます。
通常の清掃方法は、便器内や陶器の部分は、トイレ用洗剤とブラシで洗浄し、便座やフタなどの樹脂の部分は中性洗剤で絞ったクロスで拭き掃除した後、水拭きするという方法で清掃し、便座やコック、ドアノブなどをアルコール製剤を含ませたクロスで拭きあげて殺菌していると思います。特に、便座などの皮膚の当たる所に使用する殺菌剤は、安全なものを使用することが大切です。
便所の床は、特に汚染が高い場所ですので、汚れを洗浄した後に、200ppm程度の次亜塩素酸溶液で流して拭きあげることが推奨されます。この時、便器に酸性の洗剤を使用した場合は、塩素ガスが発生しますので、混ざらないように注意してください。
実は、トイレ内で最も菌に汚染しているのは、トイレの洗浄ブラシや、拭き掃除に使用するタオルです。
ブラシの代わりに使用できる、流せるシートを柄の先に付けて清掃できる用具も販売されています。清掃に使用する布は、できるだけ使い捨てのクロスを使用しましょう。そして、便所の清掃は、最低1日1回は実施し、記録を残しましょう。
便所は、どんなに綺麗に清掃しても、みんなで使用する施設です。用便中に汚染を受けた手指で触れる箇所は、病原菌に汚染している危険があり、大なり小なり便所を使用する際は汚染を受けています。
前回の、「ノロウイルスの糞口感染を防止する」のブログをご参照の上、トイレの衛生的な使用方法を教育してください。
トイレ室から出たら、作業場に戻る前に、必ず再度、十分な手洗いを実施するようにしてください。手洗いはトイレ由来の感染症伝搬防止のために最も重要な手段ですが、十分手洗いしても、爪の間や手のシワに、微量の汚染が残る恐れがあります。消費者がそのまま食べる食品を扱う場合は、使い捨ての衛生手袋を使用しましょう。
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