ノロウイルスは人の小腸上皮細胞を宿主とするウイルスです。
牡蠣や二枚貝が感染源の食品ですが、これは海水中に含まれるウイルスを貝類が取り込んで保有しているだけで、感染しているわけではありません。
感染した人から排出されたノロウイルスは、宿主を失った後、すぐ不活性化(死滅)するわけでなく、気温が20℃では10日前後、4℃だと40〜50日前後も感染力を保ちます。
ノロウイルスに感染した人では、症状が快癒した後も、通常1週間程度ウイルスの排出が続くと言われ、調査では1ヶ月以上も排出が続いた例もあるとのことです。
そして、人口全体の10%前後の人が、感染しても症状の出ない不顕性感染者だと言われます。不顕性感染者は症状が出ないのに、ウイルスは感染者と同等程度排出しますので、食中毒を防止するために最も注意が必要な存在と言えます。
HACCPの危害要因としてノロウイルスがあげられる原材料を使用する場合、85℃1分以上の加熱と、それ以降の二次汚染の防止が重要になります。
ですが、最近多発しているノロウイルス食中毒では、そのほとんどが作業者を介した二次汚染(糞口感染)によるものということができると思います。
ノロウイルスの糞口感染の起点はトイレです。
施設のトイレは定期的に清掃されていても、人と共有する設備であるため、常に汚染されていると考えるところから始める必要があります。
ウォシュレットの飛び散りや、前に使用した人の皮膚からの伝搬、用便後の拭きとり時の手指の汚染など、ウイルスが付着する可能性は多岐に渡ります。
以前、長野県保健所が発表した「トイレを起点とするノロウイルス汚染拡大の検証」で、飛び散った下痢便に見立てた青インクを拭き取った時、手首や袖口に青インクが多量に付着したという結果がありました。
さらにいうと、ノロウイルスは約30nmという極小サイズですので、トイレットペーパーを何枚重ねていても、ペーパーを持っている指先は、かなりの汚染を受けていることを忘れてはいけません。
ほとんどの人は目に見えないウイルスの付着を感じることはできません。ですが、食品を扱う人は自分の手の汚れを感じる力が必要です。
今自分のしている行為で、どこにウイルスが付着したか感じることができれば、その後の感染の伝搬を抑えることができるでしょう。
まず、トイレに入るときは作業服を脱ぎましょう。便座が洋式の場合は上着を脱げばかなり危害を防ぐことができるでしょう。
そして、冬場は特に、下服の袖は肘までたくし上げておきましょう。袖口だけでなく、腕も便座に触れる可能性があります。
手を洗う際にも、手指はもちろん、便座に接触した部分は必ず洗うようにし、その後に袖口を引き下げるようにしなければいけません。
手洗い後に衣服を着用した後も、粘着ローラーで衣服の付着物を除去します。トイレで付着した埃や繊維にも、ノロウイルスが付着していることもあります。撒き散らす前にローラーで除くことは大切です。
その後食品に触れる作業をする前に、再度手洗いをして衛生手袋を着用し、できれば衛生的に管理できる腕カバーをつけましょう。ノロウイルスに効果があるアルコールで表面を殺菌することも有効です。
トイレの中ですが、トイレの蓋は開け閉めの時に手を汚染する原因になり得ます。便座の保温には蓋をしておいた方が経済的ですが、ウイルス伝搬には蓋をしない方が良いと私は思います。
便座の殺菌液を使用する場合は、ノロウイルス対応のものを使用するようにすることも推奨されます。ただし、消毒液を少ししかつけずに便座をトイレットペーパーで拭くことは、かえって手を汚染することも忘れてはいけないでしょう。
消費者庁の調査で、トイレ後手を洗わない人が15%もいるとのことです。手を洗っている人も、ウイルスを意識して正しい手洗いできている人がどのくらいいるか疑問です。
先日ある会議で、手洗いの状況を防犯カメラでチェックして注意しているという発表を聞きました。
実際にずっと見ていることはできませんが、不適切な行為を発見した時には、逐次厳重に注意することが必要であると思います。
このようなノロウイルス感染が猛威を振るう時期だからこそ、基本的な手洗いやトイレの使い方の衛生教育が必要です。
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