製造現場では、日々いろいろなハプニングが起こります。想定外に起こる、作業者による無意識のミスは、ルール教育や注意を重ねても、人が担当する以上、避けることはできません。
どんなに工程管理に注意していても、突発的に起こる品質異常に対し、私は、食品を販売する上で、お客様が食べる前に「毒味」をすることは重要だと思っています。そのためにも、抜き取りサンプルによる品質確認検査は重要なのです。
ノロウイルスやカンピロバクター、O157など、少量の汚染が大型の食中毒につながる病原菌については、自主検査の実施は困難です。ですがこの場合も、製造した製品を保管することが、食中毒などの事故が発生した際に、自社の製造や環境を証明する証拠として、原因の究明や、濡れ衣を払拭することに役立ちます。
米飯デリカの工場に勤務していた頃、年1・2回は、保健所から保管品の収去依頼がありました。
「食中毒の届出があり、患者が食べた食品の中に、おたくの製品が含まれていました。この日に製造した製品を提出してください。」
もちろん、保管サンプルは持って帰っていただきますが、そのほかに、冷蔵庫や室内の温度チェック表、製品の検査結果、月一度実施していた作業者の手指拭取り検査結果、従業員の入場時の健康チェック表、場内での衛生的な身だしなみや作業についてまとめ、ルールブックとして従業員に配布して教育している「安全衛生マニュアル」など、この日のために実施している記録類を確認してもらい、安心してお帰りいただくのです。
最近の食中毒事例では、保健所が、患者に加え、疑わしい店舗の従業員の検便を実施し、どちらからも菌が検出された場合、それを証拠として行政処分が行われています。
ノロウイルスについては、冬場の流行期には、健常者の10名に1・2名が健康保菌者だと言われます。10人以上従業員のいる事業所では、検便だけの判断で決めつけられるという事は、濡れ衣につながりかねない、とても恐ろしいことです。
そんな時、食品のサンプルを保管していたら、物証として役にたつかもしれません。あくまで、濡れ衣であった場合です。ですが、もし万一、自社の責任で食中毒が発生していたとしても、一刻も早く原因を究明するために役立ち、会社の社会的責任を果たすことができます。
検査サンプルの抜き取り方法には、無作為なランダムサンプリングと、最も問題が発生しやすい箇所から抜き取る計画的サンプリングがあります。製造量が少ない場合は前者が、一つのロットが大量である場合は後者が推奨されます。
例えば、製造開始時に機器やラインに残留・付着していた汚染が、製品に混入する可能性がある場合は、最初に製造された製品を確認することが適切です。
また、加熱殺菌を行う場合、加熱機器の最も温度が不安定な場所を特定し、その場所の温度管理や製品検査を行うことで、全体の適切な加熱状態を保証することができます。
製造中にラインが汚染され、稼働中に微生物が増殖する可能性がある場合は、製造最後の製品を検査することで、それまでに製造した、全ての製品の安全性を保障することができるでしょう。
製造者による汚染が懸念される場合は、作業者が交代するタイミングでサンプリングする方法も考えられます。
アイスクリームや冷凍食品のように、食品衛生法で品質の規格基準が決まっている場合、検査結果で逸脱がないことを確認してから出荷することが適切です。思わぬ汚染が発生していた場合、消費者への健康被害につながりやすいからです。
しかしながら、消費期限が短く、微生物検査の結果を確認できない場合は、製造時の管理のみで出荷するため、抜き取ったサンプルの保管が重要になるのです。
ここで、事業所の品質管理担当者である、あなたに質問です。
今日の出荷に必要な数と製造数がぴったり一緒で、サンプルの提出はできないと、工場長に言われました。サンプルを製造するためには、最小ロットの製造をしなければいけない。原料や製品のロスにつながるから、今日だけ目をつぶってくれないかと言うのです。さあ、あなたはどうしますか。
答えは、「追加製造を依頼し、最初の製造のサンプルと、追加製造のサンプルをサンプリングする。」です。
特例を作る権限は品質管理担当者にはありません。もし、サンプルがないことで、大事になっても、あなたにはどうすることもできないのです。すべての責任を持つのは社長です。社長からサンプルを取らないように指示が来た場合は、なぜサンプルが必要か説明する責任はあなたにあります。それが会社や社員を守ることになり、あなたの存在意義になるからです。
もちろん、事前にこういう場合の対処方法を、「製品検査規定」などの文書で決めておくのも重要なことです。
会社の損失にならないよう、開封後の原材料の保管について、翌日まで安全に保管できる方法を決め、科学的な根拠検査の結果を保管し、「原材料・仕掛品保管管理基準」として文書化しておくとか、出荷後に残った製品は、従業員に販売するルールを決めるとか。
無理のあるルールは守られないものです。ルールを守り、会社を守るため、誰もが納得できるシステムづくりがあなたのお仕事です。
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