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今の常識、未来の非常識


 NHK大河ドラマ「いだてん」の1/27放送第4話を見ました。

 気になったのは、まだ日本にスポーツ生理学などない時代に、オリンピックを目指してマラソンに取り組む主人公が、その時代に主流であった『脂抜き走法』を取り入れて、結局倒れてしまうという場面です。

 当時は出来るだけ汗をかいて体内の水分を出し、体を軽くして走ることが推奨されていて、やみくもに走り続けたり、兎跳びなどの無理なトレーニング方法が行われていたと紹介されていました。

 

 昭和40年代、私が中学生の頃にも、兎跳び校庭何周とか、部活が終わるまで水分補給禁止という指導がありました。それが、明治黎明期からずっと続いていたなんて驚きです。今では笑い話でしょうが、夏の暑い時期など、よく死ななかったものだと思います。

 なぜそんなことになっていたのか…多分、その頃にはまだ明治生まれの偉い方がご存命で、各界で権力を持っていたからなのでしょう。自分たちが教えられた方法に固執していた部分もあるのではないでしょうか。

 新しく正しい考えも、権力のある古い考えの前には押さえつけられてしまいます。日本人は特に忖度好き。これは昔の話ではなく、今の若い人にも、空気が読める忖度好きの人間や、頭の古い上司にもとりあえず従っておこうと考える傾向が強いようです。

 

 番組では「昔の常識、今の非常識」と言われていました。本当に、今でも、特に生理学の場では、ほとんどのことが、まだわかっていないと言っても過言ではありません。今、わかったように説明し、行っていることも、「今の常識、未来の非常識」である可能性が高いのです。将来、未来人が「昔はそんなことしてたんだね」と笑うようなことが、たくさん出てくることでしょう。

 

 今、未来の非常識にならないか、私が気になっているのが、消毒用アルコールの使用状況についてです。

 現在、厚生労働省が奨励する手洗い方法では、手洗い後のアルコール消毒が明記されています。ですが、他の先進国や、農林水産省の手洗い方法には記されていません。

 地方自治体の保健所が行う指導でも、手洗い後のアルコール消毒を必須として指導してます。

 アルコール製剤は、費用的に安い、食品添加物のアルコール製剤が使われることが多く、食品や容器にも直接スプレーして使用されていて、子供が食べても大丈夫と宣伝されているものもあります。

 

 私は小さい頃から中学生くらいまでアトピー性皮膚炎でした。良くなった今でも手荒れしやすい方です。

 食品の品質管理の仕事についてから手荒れになった時、手洗い後のアルコール消毒を、塩化ベンザルコニウムのスクワブ法に変更して、手荒れが改善した経験があります。

 その時、小学校の調理師をしていた友人に、「アルコールを使うと手が荒れるよ。」と言われて気づきました。アルコールの殺菌機序は、脱水と脱脂による細胞膜タンパク質の変性です。それが多量に皮膚に噴霧されるのです。皮膚もタンパク質の塊ですので、アルコールによる皮膚の脱水と脱脂が手荒れに繋がるのは、明らかなことなのです。

 

 現状では、食品包装に使用するトレイや食器、食品自体に噴霧して使用するアルコールは、加工助剤として表示の義務がないことになっています。メーカーの説明では、すぐに揮発するから問題ないとのことですが、トレーや食品に噴霧して、すぐ蓋やラップをしてしまうのに、本当にすぐ揮発するのか疑問です。

 そんなに早く揮発しない証拠に、夏場、アルコールを資化して酢酸エチルを生成する酵母のおかげで、セメダイン臭のクレームが毎年多数発生しています。

 

 私は、このホームページでご紹介した手洗いマニュアルに、あえて、アルコール消毒を入れませんでした。

 食品業界には手荒れの人が信じられないほど多く、黄色ブドウ球菌食中毒の原因にもなっています。

 その手荒れ軽減のためには、アルコールなどの殺菌剤から手の皮膚を守ることが大切だと考えているためであり、今までの手に関する微生物検査の経験において、素手にアルコールを使用しても、効果よりデメリットが多いと考えているからです。

 

 手洗い後は、水分を除き、手荒れの人は白色ワセリンをすり込み、速やかに手袋をつけ、手袋の表面をアルコールなどの殺菌剤で消毒する。この方法が、殺菌効力も得られて衛生的です。もちろん、作業に着く前には手袋のアルコールはペーパータオルで拭き取ることを推奨しています。また、最も微生物汚染を防ぐ必要がある作業には、ポリの手袋を重ねて着用する方が安全です。

 

 食品に発生するカビを防止するため、アルコール製剤を噴霧する方法が取られています。ですが、食品表面にカビや酵母が降り注ぐような製造環境では、それほどの効果は期待できないと思います。カビ・酵母の落下菌が少ない作業所では、そもそも必要無いでしょう。

 子供達への影響と、セメダイン臭による自主回収の危険性から考えても、そして、未来の非常識と言われないためにも、この辺でアルコールの使用方法を考え直したほうがいいのではないかと思います。

 

 以前、厚生労働省の「食品事業者が実施すべき管理基準に関する指針」(ガイドライン)にも明記され、保健所からも必須であると指導されていた手洗い方法に、爪ブラシの使用がありました。もちろん、世界的に見ても日本だけのルールです。ほんの2年前までは、どの厨房や工場の手洗いにも薄汚れた爪ブラシが置かれていて、それを全員で使い回していたものです。

 私も工場にいた時、ブラシという衛生的に管理できないものを、どうやって衛生的に使用するかについて悩み、保健所の監査用に置いてはおくけど、使わないようにと指導していた時期があります。

 今では、爪ブラシの記述はどこからも消えていて、むしろ使用しているところには保健所から注意があるそうです。まさに、「ちょっと前の常識、最近の非常識」ナウです。