食品工場で勤めていた頃、ある日突然、保健所から電話がありました。
「おたくの工場で、賞味期限切れの原材料を使って製造しているという通報がありました。これから確認に伺います。」と、いきなり告げられたのです。
その頃、工場では兵庫県版HACCPの構築に取り組んでいました。この認証では、トレーサビリティーの実施が必須です。原材料から製造、出荷までのまでのトレースが出来るよう、使用する原材料の賞味期限の記録と、製造ロット、製品ロットとのトレースはもちろん、仕掛かり品の保管温度や使用期限の科学的根拠試験を実施し、管理表をつけて製造ロットを確認できるようにしていました。
この時は、帳票の確認と現場確認を実施され、保健所の疑いは晴れました。
「よくあることなんですが、退職された方が会社にどのような感情を持っているか分かりませんからね。今回は誤解ということで…良かったです。」と、保健所の方に言われて思い当たることがいくつかありました。
食品関連企業では、パートやアルバイトの占める割合が高く、人の出入りが頻繁に起こります。辞める人の中には、会社に不満を持つ人も少なくないでしょう。そうでなくても、勤めていた時に見聞きしたことを、後になって不正ではないかと考え、保健所に通報するということもあるかもしれません。
15年ほど前、国内で使用が認められていない添加物が入っていることを知りながら、中国製の肉まんを販売し続けた大手ドーナツチェーンの告発がありました。事件発覚後担当社員は、『社長から、このことは口外せず墓の中まで持っていけ」と言われたことを公表しました。内部告発が推奨されている昨今では、「ここだけの秘密」などは存在しないと肝に銘じる必要があります。
いくらトレーサビリティーの記録ルールを決めていても、何のための取り組みか、社員が理解していないために起きたヒヤリ事件がありました。現場で賞味期限切れの原材料が見つかり、製造記録を見ると、切れたままの賞味期限がリストに記載されていたのです。
作業者は、「使用した原材料の賞味期限を記入する」と言うルールは守っていましたが、「期限の切れた原材料を使用してはいけない」と言う事は知らなかったと言いました。
現場管理者は教育したはずと言いましたが、以前に注意していたとしても、作業者が理解していなかったことや、記録内容を確認していなかったことは、管理者の方に非があります。
また、作業管理者がトレーサビリティーの重要性を理解しており、作り直しの作業手間や、原材料や廃棄手数料のことを考えることができていたら、確認や教育を実施する時間をケチる気にはならなかったでしょう。
食品製造の場では、日々色々なことが起こります。時には、過去に製造に使用した原材料のリコールで、それを使用した製品の出荷先を特定しなければいけない場合もあります。
大手企業では、原料、製造、出荷を統合する、バーコードによる管理システムを導入するところが多くなっています。そんなシステムを導入できなくても、原材料から、調合、仕掛品ロット、製品ロットから出荷先の特定という全ての段階で、各作業者がトレーサビリティーが必要な理由を理解し、記録や確認を実施すれば、それが企業にとって、保険として機能します。それも、正しく記載できていることが重要です。
今回の教育資料は、チェックリストや記録表の記入方法です。正しい記入方法が理解されているか、再度ご確認ください。
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