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手洗いマニュアルについて


  寒い時期、食中毒の患者数は夏場より増加します。ノロウイルスによる食中毒が頻繁に発生するためです。 また、この時期に流行するインフルエンザも、ウイルスにより感染する病気です。感染力が強く、社内に感染が広がると、出勤者が確保できず営業することが困難になります。

 

 ウイルスは非常に小さいため、空気に漂っているものを吸い込むだけでも発症する場合がありますが、実際は、手に付着したウイルスが、口や鼻や目に触れることにより、直接侵入して感染する場合が多いようです。

 ウイルスにはそれぞれ標的細胞が決まっていて、その細胞の中で増殖し発病に至ります。手の皮膚ではウイルスは増殖しないので、手についた時点でウイルスを洗い流せば、感染するリスクを避けることができるのです。

 

 手洗いについては、公的なサイトや、洗剤メーカーホームページなどで、いろいろな方法が指導されています。30秒や1分と手洗い時間を決めて、タイマーを使用して管理しているところが多くなってきました。

 私は洗浄時間を長くすることが、洗浄効率を上げるとは思っていませんので、タイマーを使用しないマニュアルで手洗浄を行なっています。ですが、外部監査で「タイマーを設置してください。」などと言われることもあります。

 

 私は今まで、述べ1万人以上の手のふき取り検査を実施してきました。その経験から、手洗いは、たとえ手洗い時間は短くても、2度洗いすることが効果的であると思っています。

 手に付着したウイルスを除去するには、物理的に洗い流すことが重要ですが、せっけん液をつけてもみこんだ泡には、沢山の菌やウイルスが付着しいる可能性があります。

 2度洗いを推奨するのは、1度目の泡を洗い流した後に、手の表面に残った細菌やウイルスを、もう一度洗浄することでさらに減少できるからで、これは今までの検査結果でも検証しています。

 

 手洗いについての洗剤の役割は、洗剤で手に付着した微生物を殺菌するのではなく、界面活性効果で手に付着した微生物を剥がしとり、泡と共に流水で微生物を含む洗剤の泡を水で洗い流すことです。

 液体洗剤の薬用成分では、ノロウイルスを死滅することはできません。むしろ石鹸や洗剤の希釈液中に微生物が繁殖することがありますので、洗剤分は十分洗い流すことがとても大切です。

 

 私が提唱する手洗いマニュアルについてご紹介します。

 まず手を洗う前に、袖を手洗い時に袖が濡れない位置まで、ひき上げておくということが大切なことです。これはウイルスを含む泡や洗浄水が、衣服の、特に食品に接触しやすい袖口に付着すると、深刻な汚染源になってしまう危険があるからです。

 

 手洗い操作については、汚れが付着しやすいところを泡で摩擦することが重要です。

 最も汚染を受けやすいのは、指先や手の周囲、手の表面や手首のシワですので、この部分を洗い残さないように順番を決めて5回ずつこすります。手のひら、手の甲、小指側の側面、親指と母指球、指の股、指先、手首を順番に洗い、十分にこすりながら水で洗い流す手順をイラスト化しました。

 

 手洗い後は、衛生的なペーパータオルで水分を拭き取ります。この時、手洗い後の水分が、ペーパータオルを汚染しないように、下から抜くタイプのペーパーホルダーの設置が大切です。

 手洗い後の水分除去に、ジェットタオルを使用する場合は、前に使用した人の水しぶきで汚染した可能性があリます。

 ジェットタオル使用する場合は、内壁に触れないように手首まで機内に入れ、内壁や吹出し口に手が触れないように、ゆっくり抜き出しながら水分を払い落とすようにマニュアルを作って指導してください。最近は下向きに吹き出すタイプのものが増加してきました。このタイプでも、吹き出し口やその周辺部分を触ったり、水が吹き飛ぶ範囲に、食品や器具、食器を置かないことが大切です。

  綿タオルは繊維の構造上、汚染を保持しやすく、洗浄殺菌が非常に困難です。個人用であれ、共用であれ、手指の汚染につながりますので、使用しないようにしましょう。

 

 この後は、消毒用アルコールを噴霧して、衛生手袋を着用して作業をするのが一般的な方法です。

 ですが、アルコールは脱脂作用が強く、手荒れの原因になります。手荒れしやすい体質の方については、アルコールを使用せず、手袋をつけた後に手袋の表面をアルコール殺菌するという方が適切です。

 手荒れによる皮膚の傷については、黄色ブドウ球菌の繁殖に繋がります。手荒れを予防することは、食品衛生について何より大切なことなのです。

 

 

 以前食品工場の監査のお仕事をしていた頃、保健所からの指導で、手洗い後に「200ppmの次亜塩素酸ナトリウムに手を浸ける」というマニュアルを作っているところがありました。

 これは、大変危険なので絶対お勧めしません。皮膚が損傷し、白癬菌に感染しやすくなります。手袋の殺菌なら考えられますが、素肌には付着しないように注意してください。

 

 今実施している手洗い方法や手順が、本当にこれで良いのか、作業者の手荒れやアレルギーが増加していないか。十分確認しながら洗剤や薬剤を選定し、マニュアルを作成することをお勧めします。

 ここでご紹介した手洗いマニュアルを「衛生教育用ポスターギャラリー」に掲載しています。

 宜しければ、ご自由にご利用ください。

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コメント: 2
  • #1

    おっと (土曜日, 06 7月 2024 22:07)

    ノロウイルス対策としての手洗いは、指先の洗浄も大切と思うのですが効果的な洗い方の検査データとかお持ちではありませんか?

  • #2

    渡邊あおい (月曜日, 08 7月 2024 19:39)

    コメントありがとうございます。
     ノロウイルスは、腸管内で増殖するウイルスですので、汚染の拡散原因となるのはトイレになります。トイレでウイルスの汚染を受けるのは、ウイルスを含む水分が飛び散る可能性がある箇所。お尻や便器です。そしてお尻を拭く行為をするときに二次汚染を受ける手指、衣服の袖口・下着、トイレのレバーやドアノブなどです。まずはこの汚染を意識することが重要です。

     さて、ご質問の指先の汚染についてですが、先に説明したことを踏まえると、特に指先にウイルスが付着するかというと、それはかなり特殊な場合なのかなと思います。これについては検証したことはありません。一番参考になるのは、かなり古い本ですが、西田博先生の「手洗いのマニュアル」だと思います。

     手洗い検査をするときに、爪の間と手のひらを分けて検査したことはありますが、特に爪の間(指先)の方が微生物が多かったというわけではありませんでした。
     手洗い検査を定期的に実施していた時期に、菌の検出が多かった人に考えられる原因を聞くと、昨日ハンバーグ作ったからとか、風邪をひいて抗生物質を飲んでいたとか、生理中はいつも多いとかいう答えがありました。
     手の汚染で特徴的なのは、継続した汚染で常在菌化することだと思います。
     継続的に生肉を素手で扱う人の手の拭き取り検査を実施した際、手洗い直後に、殺菌アルコールを噴霧した上から拭き取り検査をしたにも関わらず、10の5乗以上の菌を検出しました。
     ですが、この対象者に直接生肉に触れないようにニトリルラテックス手袋を着用してもらうと、2週間程度で手の微生物は検出しなくなりました。

     もちろん、手洗いは手の付着物を取るためにとても重要です。
     しかしながら、ウイルスのような小さい粒子を相手にすることを考えると、手を洗いさえすれば手由来の交差汚染がすべて防げるのかというと、そうではないと私は思います。
     いつも、手は汚染されている恐れがあることを忘れず、手洗い、手袋の装着・殺菌・交換などを行うこと。これを教育し続けることが大切だと考えています。