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「使い捨て」と「再利用」


 最近、テレビで登場するシェフやパテシエのほとんどが、ニトリルラテックス手袋を着用しているのを見て喜ばしく感じています。

 

 食中毒を防止するために、手洗いが重要なのはもちろんです。手に付着したウイルスや汚染菌は、すぐに石鹸で洗い流すことが一番効果的だからです。

 しかしながら、皮膚の構造は複雑で、手洗いで全ての菌を洗い流すことはできません。

 調理従事者のように、普段から色々な食品を扱い、皮膚に細かい傷を持つ人は、一般の人に比べて手に住んでいる常在菌の数が多く、中には食中毒に関連する菌が含まれていることがあります。また、日常生活で手を汚染する機会が多い人、例えば土いじりや、ペットの世話をする人にも、同じような傾向が見られます。

 

 そんな、手洗い後に残存する微生物による、食品への汚染を防ぐためには、手洗い後、遮断性の高い材質の、衛生手袋を着用することが、最も適切な方法であると言えます。

 薄手の手袋なら、素手と同じように細かい作業を行うことができ、手袋の表面が汚れても、洗剤で洗い流し、消毒することで繰り返し衛生的に使用できます。

 

 指輪や絆創膏をつけている人は、皮膚とそれらの間に湿気がたまり、多くの菌がバイオフィルムを形成するため、もっと複雑な菌種が存在することにります。そんな人が食品製造に従事する場合は、衛生手袋の着用は必須であると言えます。

 

 手袋だけでなく、布巾についても使い捨てを使用するところが増えています。厨房内で1枚の布巾を色々な用途に使用することは、布巾に付着した汚染を厨房内に広げる危険性をはらんでいます。

 最近では、使い捨てのクロスの価格も下がってきたため、色別に用途を分けて、使い捨てで使用するところが多くなっているのです。

 

 ですが、これらの衛生機材も、頻繁に交換して廃棄するとなると、廃棄物問題につながります。私も食品工場で勤務していた時は、「使い捨て」と「再利用」の間で随分試行錯誤を重ねました。

 お寿司の工場では、使い終わったクロスをバケツに溜め、流水でクロスについた汚れを洗い流し、洗濯機で洗浄し、乾燥機で乾燥させてバケツに入れ、使用前に強酸性水で二度水を換えて殺菌して使用していました。

 これは、作業で扱う食品が全て加工食品で、菌数が制御されているものだからできることです。生肉や土付きの野菜などを扱う職場では、確実な洗浄殺菌方法を、もっと細かく管理しなければいけません。作業者の労働人時を考えると、クロスは使い捨てたほうが、衛生的で経済的です。

 

 その他にも、食器や器具を再利用する場合、十分な洗浄で付着物を除去する必要があります。また、バッカンなどの製造に使用する容器も、肉や魚などの病原菌を含む可能性がある食材に使用するものと、加熱後の食品や、そのまま食べる生野菜や果物に使用するものは、区分したほうが良いでしょう。

 以前、洗浄機で洗浄した後のバッカンをふき取り検査した際に、角の部分から大腸菌群が検出された経験があります。容器の底隅部分は洗浄機では洗い辛く、汚れが残りやすいのです。洗浄殺菌に十分な人時をかけられない場合は、そのまま食べる食品に使用するバッカンには、使い捨てのビニール袋をかけて使用することが推奨されます。

 

 「安全」と「環境」という側面で考えると、どちらも大切で判断が困難になります。

 食品の安心安全を守る立場の営業者としては、消費者への危害を防止することを中心に置くべきです。必要な衛生機材の使用はやむを得ないものです。その上で、環境負担を減らすべく、どうすれば使用量を減らせるかを考えましょう。