2018年、これまでに発生した食中毒は、件数、患者数共に例年よりかなり少ない状態で推移しています。特に7月から9月の食中毒事故発生数は2017年の半数以下です。
しかしながら、その中でも記憶に残るほど深刻だった事件が、200人の感染者を出した愛媛県農産物直売所で発生した、うなぎ蒲焼製品によるサルモネラ食中毒でした。
サルモネラは繁殖力が旺盛で感染力も強いため、時として大型の食中毒に発展します。この事故はその典型と言えるでしょう。
従来、サルモネラ菌による食中毒といえば、ほとんどが卵由来のサルモネラ エンテリティディスによるものでした。最近では養鶏所のサルモネラ対策や卵の殺菌技術が進んだおかげで、エンテリティディスは随分少なくなりました。
エンテリティディスは卵殻内部を汚染するため、私が検査していた20年ほど前は、夏場の未殺菌液卵のサルモネラ陽性率は50%程度でした。今は検査していませんが、食中毒の発生状況から見てもっと低くなっていることは間違いありません。
その他、この夏のサルモネラによる食中毒事例で、牛ユッケでの発症が報告されています。生食文化のある日本では、生食メニューの提供から食中毒につながるケースも少なくありません。サルモネラ食中毒は高齢者や小児で重症化する場合もあり、生食メニューを販売する際は、健康被害に対する注意表示をする必要があります。
サルモネラは少量の菌数でも発症に至りますが、若く健康な人は発症せず、暫く健康保菌者になる場合があります。食品事業者で実施する検便でも、サルモネラは検出されることが多い菌であり、そのほとんどが症状のない健康保菌者です。再検査の結果検出されない例がほとんどですが、保菌している間に、人から食品に汚染する危険があります。
サルモネラは熱に弱く75℃で死滅します。しかしながら、加熱後の食品に二次汚染した場合、多くの感染者を出す事故につながります。
食中毒防止には、「つけない」「ふやさない」「やっつける」が重要といわれますが、サルモネラでは冷蔵庫内でも増殖することが可能ですので、「やっつける」「つけない」「すぐ食べる」となるでしょう。
卵にサルモネラが含まれている場合、それを割ると手を汚染し、容器に入れて箸で混ぜるとそれぞれに菌が付着し飛び散って環境を汚染する恐れがあります。それらの菌が加熱後の食品に付着すると、置かれる温度条件と時間によって菌がどんどん増殖し、その菌がまた次の食品を汚染するという連鎖が生まれます。
生肉や魚介類や卵は内部までしっかり加熱し、その後すぐに食べるか、衛生的な包材で密封して冷却保存することが、食中毒を防ぐのに重要です。
卵のサルモネラ汚染は少なくなったとはいえ、汚染される可能性を完全に防ぐ方法もない状況です。
日本では卵は10度以下で保存するよう表示されていますが、サルモネラ汚染が多い海外では、卵の保存温度は4℃以下で行われています。飲食店で卵を常温で保管しているところもありますが、生、もしくは完全に火を通さない状態で食べる場合、必ず冷蔵庫で保管して期限までに使い切ることを徹底すべきです。
また、鳥獣肉についても、特定の牛肉以外は生食用の食肉は存在しないのですが、生や十分加熱しないまま提供する飲食店がサルモネラ食中毒の原因になっています。
消費者としても、飲食店や販売店を利用する際は、生食用として危険表示がされている牛肉以外の生肉メニューを販売していないことや、生卵を冷蔵庫で保管していることを、信頼できる店であるバロメーターとしてチェックするようにしましょう。
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