9月の自主回収情報で、カビによる回収が9件発生しました。これはこの一年間で、最も多い件数です。
カビは空気中に浮遊している胞子が、水分や栄養分のある場所で成長します。細菌と最も異なる点は、その生育スピードは早く、条件が良ければ1〜2日程度で目に見えるコロニーを作るということです。そのため、付着している胞子がたとえ一個でも食品へのダメージが大きく、食品衛生において、とても厄介な微生物であると言えます。
カビは気温が35℃以上になると成長が阻害されるため、毎年6月〜7月と9月にはカビによる回収が増加します。
カビは相対湿度が60%を下回ると成長が阻害され、湿度の低いところでは成長できません。カビが栄養素を分解するための酵素が水がないと反応しないからです。食品に取り付くカビの胞子も、水分活性が0.80以下では成長が阻害され、0.60以下では乾性カビでも生育できなくなります。
また、カビは酸素の全く無い状態では発育できません。しかしながら、わずかな酸素があれば成長できますし、死滅するわけではありません。製品の保存期間延長のために、食品包装内の酸素を脱酸素剤で除去している場合、包装不良やピンホールの箇所から酸素が入り込み、食品にカビが発生して回収に至るケースが多数発生しています。
他に、 酸素を遮断する方法としては、包装内の空気を窒素や二酸化炭素などの不活性ガスと置換する方法もあります。この場合、不活性ガスは包装内での長期安定性に欠ける為、あまり長い期間の賞味期限を設定をすると、カビの発生につながる場合が見られます。
また、アルコールを充満させた中でもカビの発育は阻害されますので、アルコール蒸散剤を封入する場合もあります。この場合、水分活性の高い食品(0.85以上)では、アルコールが吸着され静菌効果が低下しますので、カビの発育につながる恐れがあります。
以上のカビの性質から、今回、9月にカビによる回収が増加した原因と思われるのは、今年の記録的な降雨量とそれによる湿度の上昇があったのでは無いかと思われます。
9月にカビにより回収された食品を見ると、チョコレート、羊羹、乾麺、イカ加工品と、いずれも水分活性の低い食品群でした。通常ではカビが生えないこれらの食品にカビを繁殖させたのは、高い湿度からくる結露によるものであった可能性があります。
気象庁が発表している気象データ(東京)を見ると、9月の降水量は8月の4倍、平均湿度は86%で年間通じて一番高い数値でした。加えて急激な気温の低下があり、非常に結露しやすい状態であったことが推察されます。
この結露が環境のカビ発生を促進し、食品の水分活性を上昇させた結果、通常では考えられないカビの発生を招く結果になってしまったのではないでしょうか。
乾燥した食品を扱う部屋の湿度のコントロールには、除湿機の導入が効果的です。1日に数時間でも室内の湿度を40%程度に下げることができれば、カビの発育を抑えることができます。
私も、雨天などの湿度が高い時に、食品を保管したり包装したりする作業室に、家庭用の除湿機を数台稼働させて結露を防止していました。
湿度対策は製品の品質に直接関連するため、特に異常気象の昨今では、積極的に取り組むことをお勧めします。
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