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黄色ブドウ球菌対策


 黄色ブドウ球菌は、人の腸管や鼻腔、咽頭に生息している常在菌ですが、化膿菌であり傷口に感染して炎症を起こします。

 人の保菌率は40%ほどとのことですが、深い傷口ができた場合に化膿しない人は少ないことからも、もっと高確率で保菌しているものと思われます。

 

 アトピー性皮膚炎や手荒れの患者の炎症部分には、かなりの確率でこの菌が検出されます。

  本菌は人だけでなく、家畜を含む哺乳類や鳥類にも広く保菌されており、乳腺炎の乳牛のミルクや、食肉、魚介類(作業者の手からの二次汚染あると思われます)からも検出されます。

 

 黄色ブドウ球菌食中毒は、食品中で本菌が10万個/gを超えて増殖する過程で、菌外毒素エンテロトキシンを生成し、それを人が食べて発症する毒素型食中毒です。

 そのため、食後30分〜6時間という短時間で悪心や嘔吐などの症状が現れ、通常、症状が重症化したり、死にいたることはありません。

 

 黄色ブドウ球菌は、通常の細菌が増殖できないような、高い塩分濃度下でも増殖できる対浸透圧菌です。

 10〜46℃で増殖してエンテロトキシンを産生すると言われていますが、本来体表面付近で生息する菌のため、35℃付近の中温域では旺盛に繁殖しますが、10℃付近になると増殖スピードが極端に低下します。

 

 黄色ブドウ球菌自体は耐熱芽胞は作らないので、75℃程度の加熱で死滅します。

 ですが、生成された菌外毒素のエンテロトキシンは耐熱性があるため、レトルト加熱条件でも失活しないことが知られています。

 

 過去の食中毒では、原乳の保管温度不良で本菌が牛乳中で増殖し、生成したエンテロトキシンが、脱脂粉乳に加工する際の加熱乾燥工程でも失活せず、これを原材料として使用した乳飲料で食中毒が広範囲に発生しました。

  2024年節分の恵方巻きで150人が食中毒症状を発症し、保健所は原因として、従業員が保菌していた黄色ブドウ球菌が具材を汚染したことを指摘しています

 

 黄色ブドウ球菌の食中毒の発生は気温の高い夏場に多く、原因食品にはおにぎり、寿司、肉や卵、乳などを使用した加工食品、菓子類と、糖分を豊富に含む食品に多発しています。

 汚染は手の傷口からの二次汚染や、原材料からの汚染、フケや毛髪からの汚染も発生しています。

 特に手荒れのある人の傷口には多くの黄色ブドウ球菌が存在し、食中毒の発生も飲食店や家庭で多発しています。

 

 私も手荒れしやすく、痒い水泡が潰れると黄色ブドウ球菌が検出される体質です。

 私自身の症状を元に独自で検証したところ、手に傷口があるときには多くの黄色ブドウ球菌が検出されますが、傷口が塞がった後はこの菌の検出はありませんでした。

 最も重要なのは、手荒れや皮膚炎、その他常在菌として検出される黄色ブドウ球菌は、手洗いではなくならないということです。

 

 今回の報道では、地域保健所は食中毒を起こした恵方巻き製造業者について、手洗いが不十分との見解を出していますが、どんなに手洗いしても、どんなに消毒しても、黄色ブドウ球菌を手から完全に除菌することはできないので、手洗いを改善方法と位置付けるのは間違いです。

 

 黄色ブドウ球菌の検出される手の傷は、突き刺した深いもので、例えば、釣り針や、魚のひれ、エビの尻尾のとげなどで突き刺したものです。

 また、手荒れについては、体液が滲み出るような痒い湿疹、深い根をもつ吹き出物などの場合、ほぼ100%の確率で黄色ブドウ球菌が検出されます。

 

 姫路の恵方巻きでは、冬場の低温でも、常温で2日間保存したとのことですので、この間に黄色ブドウ球菌が増殖して毒素を産生したのでしょう。

 恵方巻きの時期は、製造キャパを超えて受注を受けるため、どこの生産者も前倒し製造を行います。

 この時必要なのが、危害の検討とその対策の実施です。つまりHACCPの手法ということです。

 

 長く保管するためには、10℃以下の環境で老化しない酢飯の手配が必要です。

 保管するための冷蔵設備のスペース。これは周りの食材などから二次汚染を受けないことが必要です。

 巻き寿司の具の保存性の検証が行われていること。通常は自家製の具でも、長期に保存するものに関しては、微生物的に信頼できるメーカーの具材を使用することが推奨されます。

 

 そして一般的衛生管理として、従業員からの食中毒菌汚染に対する対策です。

 黄色ブドウ球菌の場合は、事前に検査を実施して確認することができます。黄色ブドウ球菌を持つ体質の人は、長期に保管する食品の製造には参加しないようにしましょう。

 

 他にも、ノロウイルスや病原性大腸菌など、手由来の二次汚染菌については、手洗いと遮断性の高い手袋の着用、手袋表面の頻繁なアルコール消毒で対応できます。

 保健所の指導する、作業場での頻繁な手洗いなどは、かえって食中毒菌を飛散させてしまう恐れがあります。

 一度手袋をしたら、作業中に作業場で手袋を外さないようにして、頻繁に破れを確認し、アルコールで消毒することが重要です。

 

 一方、根本的な黄色ブドウ球菌対策ですが、先ずは傷や手荒れの傷口を、早く塞ぐことが大切です。

 手荒れの時は、手洗い後、よく乾燥して白色ワセリンを塗り込み、薄手のポリ手袋を着用することで、皮膚の乾燥を防ぎ、外部から刺激を受けないようにすることが大切です。

 手洗いは手荒れに悪効果だと思われていますが、傷口を清潔に保つためにも、頻繁に手洗いし、清潔な油脂でコーティングすることが大切です。

 

 また、アルコールやその他の殺菌剤は、皮膚の乾燥や刺激の原因になり、手荒れを悪化させますので、使用しないことをお勧めします。

 傷口から体液がにじみ出る場合は、薄手の綿手袋をポリ手袋の下にすると楽になります。

 

 手荒れ防止に最も大切なのは、皮膚にできるだけ刺激を与えないこと。痒くても掻かないことです。

 皮膚を刺激する要因には、洗剤成分やアルコールなどの殺菌剤、食品成分などのアレルギー反応があります。

 そのような刺激から手を守るため、できるだけ普段から手袋を着用しましょう。

 私の場合は、手袋の中で汗をかいても、手の黄色ブドウ球菌が特に増加したり、傷が重症化したりはありませんでした。

 

 皆さんは、チフスのメアリーの話をご存知でしょうか。

 100年前のアメリカで、自分がチフスの保菌者であることを知らず、料理人として勤めていた、家の主人にチフスを感染させて、死にいたらせた女性のお話です。

 定期的な検便の実施や、健康状態の確認は、第三者に食品を提供する者の、大切な義務といえます。