食品工場で殺菌のために使用されているアルコール製剤は、ほとんどがエタノールを主に配合しています。
アルコール類は炭素鎖の両端に親水基と疎水基を持ち、有機溶剤として洗浄や抽出に使用されます。その中で人に毒性の低いエタノールが消毒用剤の基材として使われています。
アルコールの殺菌機序は、細菌の細胞膜への浸透性やタンパク質の変性による溶菌作用です。この溶菌作用には水の存在が必要で、エタノール濃度が70〜80w/w%で最も殺菌力が高いと言われています。
食品現場でよく使われるアルコールは、精製水に加え有機酸などの食品添加物が加えられ、アルコール製剤(食品添加物)として販売されています。日本薬局方の消毒用アルコールは、酒税法による税金がかかるため、食品添加物としては税金がかからず、その分安価に使用できるのです。
自動噴霧器にアルコールを入れて使用する場合は、食品添加物として配合されている酸により、ノズルが錆びて使用できなくなる場合がありますので、注意が必要です。
アルコール製剤の表示を確認してください。消防法によりエタノールが60w/w%以上含まれるものは第四類危険物の表示があります。
この表示のあるアルコール製剤を事業所で取り扱ったり保管する場合、80ℓ以下なら大丈夫ですが、80ℓを超え400ℓ未満の場合は消防署への届出が必要にないります。ちなみに400ℓを超える場合は、危険物保管施設の届け出と危険物取扱者の設置が必要になります。
このため、エタノール濃度を60%以下に下げ、その分食品添加物で殺菌効果を上げた製剤が販売されています。このような製剤にはノロウイルスに効果のあるものもあります。
このようなアルコール濃度が低い製剤では、エタノール以外の成分が多く、乾燥後噴霧面に膜になって残るため、ねたついた感じになります。コンベアーや作業台に噴霧する場合は埃等の吸着に注意が必要です。
アルコールは皮脂膜を破壊しタンパク質を脱水するため、アルコールを手指に使用する際は、手荒れへの配慮が必要です。
手荒れしやすい人や、手荒れを起こしている手には、アルコールの噴霧はさらに手荒れを悪化させ、黄色ブドウ球菌の汚染を増加させる恐れがありますので、アルコールを使用せず衛生手袋を着用し、その上からアルコールをかけるようお勧めします。
食品添加物であるアルコール製剤には、「直接食品に噴霧できます」と表示されています。
私が米飯デリカ工場に勤務していた頃、いなり寿司からセメダイン臭がするというクレームがありました。工場で保管していたサンプルからもわずかに臭気が感じられたため、これを分析した結果、多数のレモン型の酵母が検出されました。
この酵母はアルコールを酢酸エチルというセメダイン臭の元になる物質に変えるもので、セメダイン臭クレームの原因のほとんどがこの酵母によるものです。
糖分や水分の豊富な食品を好み、一般的な環境に普通にいる酵母ですが、特にアルコールを資化して酢酸エチルを生成しやすく、アルコールが付着した部分だけセメダイン臭がするという状態になります。そのため、消費者が食べた部分にだけ酢酸エチルが生成されていて、ほかの部分には酵母も臭気も発見されないということがよくあるのです。
その頃、盛り付け前のトレーやいなり寿司そのものにアルコールを噴霧する習慣があり、それを禁止したところ、臭気のクレームは全くなくなりました。
これは、パンや焼き菓子でも起こりやすく、アルコール製剤を封入した菓子でも、この酵母によるセメダイン臭による自主回収が発生しています。
アルコールは速乾性があり、殺菌力も強いため、作業環境の衛生保持には適しています。そんな便利なアルコール製剤ですが、その性質を理解して安全に使用することが必要です。
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