· 

ウエルシュ食中毒


 9月21日、岩手県普代村の敬老会に出席したお年寄りとその家族200人が、下痢や腹痛の食中毒症状を訴えるという事件がありました。原因はウエルシュ菌であったとの事で、食事を提供した「国民宿舎くろさき荘」は、25日から4日間の営業停止処分を受けています。

 

 ウエルシュ菌は、ヒトや動物の大腸内常在菌であり、下水、河川、海、耕地などの土壌に広く分布する一般的な細菌です。しかし、中にはエンテロトキシンを産生する株(下痢原性ウエルシュ菌)が含まれます。

 ウエルシュ菌は芽胞を形成する偏性嫌気性菌(酸素のない状態で活発に増殖する菌)で、特に食中毒に関連するものは耐熱性(100°Cで1〜6時間の加熱に耐える)の芽胞を形成します。この芽胞が、加熱調理後の酸素濃度が低い状態の食品中で発芽し、徐々に冷えて行く間の20~50°Cの温度帯で爆発的に増殖します(分裂時間 は45°Cで約10分と言われています)。そして、食品と共にその大量にウエルシュ菌を食べることにより、その菌が腸管内で増殖し、芽胞を形成する際に生成されるエンテロトキシン(腸管毒)で腹痛や下痢を誘発する、感染型食中毒を発症するのです。

 

 日本においては、ウエルシュ菌による食中毒事件数はそれほど多くはありません。しかし、1事件あたりの患者数が多いのがこの食中毒の特徴です。というのも、大量に調理される食品中心部の、高温で嫌気的な条件がウエルシュ菌の発育に特に適しているからで、別名“給食病”とも呼ばれます。

 

 ウエルシュ菌食中毒の潜伏時間は通常6〜18時間、平均10時間で、喫食後24時間以降に発病することはほとんどないということです。主要症状は腹痛と下痢で、下痢 の回数は1日1〜3回程度のものが多く、主に水様便と軟便で、嘔吐や発熱などの症状はきわめて少なく、症状は一般的に軽くて1〜2日で回復します。

 

 食中毒予防の要点は、加熱調理後の食品の取り扱いにあります。

 加熱調理後は速やかに食べることはもちろんですが、保存する場合は、かき混ぜながら急冷し、短時間で10℃以下に品温を下げることが必要です。保存する場合は、10°C以下又は 55°C以上の温度で保管しましょう。

 ウエルシュ菌の産生するエンテロトキシンは、熱(60°C10 分)や 酸(pH4 以下)で容易に不活化されます。保存後の食品を提供する前には、撹拌しながら沸騰まで再加熱を行うことで食中毒を防止できます。

 特に大量調理施設では、調理マニュアルに加熱調理後の食品の取り扱いについて手順を明記し、作業者全員に教育することが必要です。特に加熱後の冷却工程は、時間や温度の記録をとるなど、適切な管理を行いましょう。

 

 いつもは大丈夫な工程でも、たまたま原料に病原性のウエルシュ菌が含まれていた場合、大量の食中毒患者を出す事故につながってしまいます。

 「病原菌はいつもいる」と思い、みんなで注意することで食中毒を防止しましょう。