アレルギー疾患を持つ人が、アレルギー物質の誤食や誤飲により、アナフラキシーショックなどの症状を発症するケースは、家庭や学校給食などで毎年報告されています。
食品製造業では大型事故は発生していませんが、消費者庁が発行している「アレルギー物質を含む加工食品の表示ハンドブック」には、事故例が掲載されています。
ピーナッツを使った菓子と、同じミキサーを使用して作った菓子を食べて、ピーナッツアレルギーを持つ子供がアナフラキシーショックを起こしたという内容です。もちろん表示にピーナッツはありませんでした。
業務用ミキサーは、本体にボウルとホイッパーを取り付けて、生地の混合を行います。ですので、アレルギー物質の異なる食品を製造する際は、ミキサーとホイッパーさえ取り替えれば、コンタミ汚染は受けないと考えられます。
しかし、混合中に飛び散ったピーナッツが、ミキサーの何処かに付着していたとしたら、それが次の製造の際に落下して混入する可能性は否定できません。
アレルギー反応を起こす可能性があるため、表示を義務付けられているのは10ppm以上と言われています。
それでは、このケースではどのくらいの量が混入すると、症状が現れる危険が発生するのでしょうか。
仮定としてミキサーで30kgの生地を混合していたとしましょう。
ppmとは、mg/kgを表す単位です。30kgの10ppmは30mgなので、この量のピーナッツのタンパク質が混入したとすると、ピーナッツは約25%がタンパク質ですので、混入したピーナッツは120mg=0.12gとなります。
普通のピーナッツで一粒1g足らずですので、30kgの生地なら1/8粒程度が混入したら10ppmになります。
ちなみに30kgだと、一般的なクッキーなら3000個程度でしょうか。
こんな少量でアナフラキシーショックにつながるとしたら、同じ機器で製造すること自体が大変危険なことだとわかります。
以前、ナッツの袋詰め工場に点検に行った時のことです。ピーナッツの入っていない製品を包装する、自動軽量装置付きの包装機の桟部分に、ピーナッツが乗っているのを発見し、作業を止めて清掃をし直してもらったことがあります。
そのピーナッツがあったのは、高いところにある包装機のホッパーの桟で、ホッパーを映すステンレス鏡に写っていたのです。通常の視線では見えない場所とはいえ、包装機が作動すると振動でホッパーに落ちて混入する危険がありました。
その時は、アレルゲンの異なる製品を包装する際は、チェックリストを作って見落としがないようにしたほうが良いとアドバイスしたと思います。
他に、弁当や惣菜の調理の際は、同じ作業場でいろいろな食材を扱うことになるので、特に注意が必要です。
製造中に、表示にないアレルギー物質の汚染を防ぐよう、作業方法や食品の保管方法について、ルールを作って全員に教育しましょう。
どうしても混入の危険が防げない場合は、注意書き表示をすることも必要です。
表示と言えば、スイートチョコレートには「乳」は使っていませんが、必ずと言っていいほど「乳」のアレルゲンが検出されます。これは、チョコレートの製造ラインは水で洗えないため、次のチョコで押し流す「共洗い」という方法で品種の切り替えを行うためです。よほど大きい工場で多数のラインを用い、スイートチョコとミルクチョコを完全に区別して作らない限り、アレルゲンのコンタミを防止することができないのです。
実は、海外の原料チョコレートにアレルゲンが表示されるようになったのは数年前のことです。原料のスイートチョコレートに「乳」が含まれているのを知らず、「乳」を表示していないことで、毎年、バレンタイン前の保健所の収去検査で「乳」アレルゲンが検出され、自主回収が発表されています。
チョコレートのように混入を避けることができない場合は、たとえスイートチョコレートに使用されていなくても、混入する「全粉乳」を原材料名で表示するところが多いようです。
もし、「乳」のアレルゲンを気にされる場合は、表示にない製品でも、確実に入っていないか確認されることをお勧めします。
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