今回は、口腔内微生物に関する話題です。
食品工場では作業の際に不織布のマスクをつけています。これは、食品の上に唾液がかかると気持ち悪いというだけでなく、保存性が著しく落ちるためでもあります。
普段は気にも留めない口の中では、めくるめく微生物のワイルドライフが展開されています。しかもこれは、色々な疾病に関連する可能性もあるのです。
チョコレート工場で品質管理のお仕事をしていた頃、毎年必ず、歯の詰め物や欠けた歯、インプラントの釘など、口腔由来異物のクレームが多数寄せられました。時には、チョコレートより大きいサイズの、歯科治療用の樹脂が混入していたとクレームを付けられる方もあり、重ね重ね、自分の口の中の事って分らないもんなんだなと感じたものです。
これらの異物が口腔由来であるかどうかの決め手になるのが、バイオフィルムの有無です。
ツルツルしているように思う歯の表面にも、歯細胞の隙間にバイオフィルムが形成されています。クレーム異物をスライドガラスに取り、無菌生理食塩水に浮かべて顕微鏡で見ると、表面に無数の微生物がうごめいているのが見えます。
長いのや渦巻いてるもの、丸いのや長くつながっているものなど、多くの微生物がびっしり付着しているのです。手袋をしていないで異物を扱ってしまうと、後で後悔する事間違いなしです。
口腔内微生物は決まった種類だけではありません。口腔内に歯肉炎や口内炎などがあったり、虫歯で膿がたまっている人は、口の中に黄色ブドウ球菌が存在している可能性があります。また、飛沫感染で伝搬する病気は、口の中に原因微生物がいるという事になります。
インフルエンザウイルスも口内ミクロフローラで増殖すると言われています。2009年に神戸から始まった新型インフルエンザの時は、発症した高校生がペットボトル飲料の回し飲みをしたことから、感染が広がったという話もありました。
最近では、ノロウイルスも患者のくしゃみ等の飛沫で感染すると言われ、感染防止にマスクの着用が有効と言われています。
口腔内の微生物は、食べる物にも影響を受けます。
納豆を食べた人が醤油工場に入ると、醤油製造にかかわる酵母菌や乳酸菌を納豆菌が駆逐するため、「工場見学前は納豆を食べないでください」と注意しているところもあります。
一人の納豆を食べた人が醤油工場を止めてしまうなど、それほど多くの口腔内微生物が口から出ているという事なのでしょう。
食品工場で働く人には、口腔内には大腸と同じく、複雑な構造に想像をはるかに超える数の微生物が共生していることを教育してください。
それを知ると、作業時に食品のあるところでマスクを外しておしゃべりしたり、飲食したりすることの危険性に気付いてもらえるのではないでしょうか。
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