テレビの料理番組での一コマです。
講師の方が、蒸籠に乗った野菜の上に、素手で生の豚肉を乗せています。その後、手を布巾で拭いて蒸籠を蒸し器に乗せ、瞬間、水道水で手を洗っているような音はしましたが、すぐに次の調理にかかります。
次のメニューは加熱せずに食べる、生野菜のコールスローです。キャベツときゅうりを切ってボウルに入れ、調味料と梅干しを入れ、そのまま素手で混ぜ合わせました。
この番組では忙しい主婦のために、20分で出来る4人分の晩ごはんメニューを紹介していました。
残念だったのは、公共放送で食事を調理する人に向けて発信する番組において、衛生的な食品の取り扱いの情報提供を意識されていないということです。
生の豚肉にはE型肝炎ウイルスやその他の食中毒菌が含まれている恐れがあります。そんな豚肉を扱った手には病原菌が付着しているかもしれず、軽く水洗いしただけでは菌は除けません。そんな手でそのまま食べる食品に触れると、運が悪ければ食中毒に繋がるかもしれないのです。
今年6月に食品衛生法が改正され、HACCPに沿った衛生管理の制度化が2年以内に始まります。
HACCPは一次原料の生産から最終消費者までのフーズチェーン全体を対象としていて、コーデックス委員会の「食品衛生の一般的原則」では、「製品の情報及び消費者の意識」の中に「消費者教育」が上げられています。
その中では、「消費者は食品が媒介する病原菌汚染についてや、病原菌の発育または生存を防止する方法について、正しい情報を得る事が必要である」、「不適切な一般的食品衛生の知識は、フーズチェーンの川下の段階で製品の取り扱いを誤らせることになり、適切な衛生管理手段がフーズチェーン川上で行われたとしても、病気を起こす結果になるか、消費に際して不適切な食品になり得る。」と明記されています。
消費者にHACCPの教育が必要な理由として、家庭での食中毒の問題があります。なかなか表面化しないため、食中毒統計の発生件数は飲食店の次いで二位ですが、実際にはもっと多いと考えられます。
消費者に対する食中毒防止のための教育については、抽象的な用語「つけない、増やさない、やっつける」が知られますが、実際にどうすれば良いのかは具体的ではありません。その結果として、生肉などの加熱不足による食中毒が過去に発生していますし、飲食店で鳥獣肉の不適切な生食メニューが出され続けていて、それを注文する消費者が被害を受けるケースも後を絶ちません。
以前、勤めていた工場でアイスクリーム類製造業の営業許可を申請した際、保健所から言われた最初の言葉が、「未殺菌の牛乳は使いませんよね。」でした。
ちょうどその頃、「未殺菌搾りたてミルク」でアイスクリームを製造していた事業所で食中毒が発生していたようで、「どうしてそんな危険な原料が使いたいのか理解できません。」と話されていました。
残念ながら、一般消費者の意識の中に、「生」や「未殺菌」、「搾りたて」という言葉は、「新鮮」、「美味しい」、「体に良い」につながり、「殺菌」や「加熱処理」は「不味い」、「体に悪い」というイメージがあるのです。しかしながら、どんなに新鮮でも一次原材料には特有の病原微生物が含まれる恐れがあります。そして、そんな病原菌が付着した手が調理した食品を汚染し、食中毒の発生につながることは、今までの事故例でも明白です。
食品を取り扱う企業にHACCPを義務化しても、消費者がその意味合いを正しく理解しなければ、事業所の努力も正しく評価されず、食中毒の減少にも繋がらなくなってしまいます。
HACCP義務化時代に向けて、まずは調理教育の中にHACCPの概念を取り入れることが重要です。自らの健康を守る具体的な情報を発信し、正しい一般知識を普及することが今必要なことです。
特に公共放送では、積極的にHACCPの普及に取り組んで欲しいと思います。
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