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モスバーガーでO121食中毒発生


 モスバーガーのホームページでは、いかに食品の安心・安全を重視しているかと言うことが、「モスの品質管理基準」や「モスの衛生管理」などのページで詳しく説明されています。フーズチェーン全体を通じて、HACCPを元にした一貫した衛生管理が実施されていて、特に、パテの食肉に考えられる微生物的危害については、75度1分以上の加熱が実施されているとのことでした。この条件では今回原因となった大腸菌は、十分殺菌できるはずです。

 

 それなのに、なぜこのような食中毒事故が発生してしまったのでしょう。ここからは、可能性の話としてお読みください。

 

 先の「モスの衛生管理」では、特に手洗いについての取り組みが紹介されています。

 モスバーガーでは手に付着した細菌の90%以上を落とすという手洗いと、自社開発のアルコール製剤での消毒を、作業前や作業中1時間毎に励行しているとのことです。

 しかしながら、この手洗いが手の汚染を助長している可能性があるのです。

 

 手の表皮はステンレスやプラスチックではありません。

 皮膚は、ごく薄い真皮の上に、角層細胞やその間を埋める脂質が何層にも積み重なっている構造をしています。そしてその表面を薄い皮脂膜が覆っていて、バリア性の高い表皮を形成しているのです。

 このバリア性のおかげで、皮膚に付着した汚れや通過微生物が、皮膚に侵入することを防ぐことができ、炎症や感染を防ぎます。

 

 しっかりした手洗い後は、表面の皮脂を失い、角質層の膨潤や剥離が起こります。加えて、アルコールを擦り込むと、角質層の乾燥を助長し、更なる表層の剥離が起こり、表皮のバリア性は低下してしまうのです。

 このバリア性が低下した状態の皮膚が通過微生物汚染を受けると、皮膚の細かい傷部分にバイオフィルムを形成することがあり、バイオフィルムが形成されてしまうと、さらに洗浄や殺菌剤での除菌がしにくい状態になります。

 

 私は今まで、手のふき取り検査を延1万人以上に実施してきました。その結果として私が感じているのは、素手で生肉や土つき野菜などの食品を扱う機会が多く、その時間が長い人ほど手に検出される菌が多く、その菌は洗浄や消毒剤で減少しないということです。

 また、手荒れがある人の手には、高い確率で黄色ブドウ球菌が検出されます。このケースでは、手の表皮にバイオフィルムを形成しているため、いかに手洗いや殺菌しようが黄色ブドウ球菌が減少することはありません。

 

 食品を扱う際に実施する手洗いとして私が最も推奨するのは、爪を短く切り、ブラシなどは使わず、手の表皮を守るように泡で優しく汚れのみを除去することです。その後、素手にアルコールを噴霧せず、遮断性のある手袋を装着し、手袋の表面をアルコールで殺菌します。

 これで手荒れを防ぎ、素手由来の微生物汚染を防止できます。

 作業中は手袋を脱がない様にし、頻繁に手袋を洗浄消毒することで清潔にします。最も安全が求められる、そのまま食べる食品を扱う際には、さらにこの上からポリ手袋など使い捨て手袋をつけて扱います。

 これなら、人の手に常在的に付着した、有害微生物による食品への二次汚染が防止できます。

 

 モスバーガーのHPを見ていて、手袋をしている作業者の写真がないことが気になりました。マクドナルドでも、そのまま食べる食品を扱う作業員は手袋を着用していません。

 黄色ブドウ球菌なら増殖するまでに時間がかかり、その場で喫食するファストフード店での危険性は低いかもしれません。

 しかしながら、食材に含まれるかもしれない腸管出血性大腸菌やカンピロバクターは、わずかな菌数でも大きい食中毒の原因になる恐れがあります。そして、もしこれらの菌が手荒れのバイオフィルムに含まれていたら、いかに手洗いしアルコールを揉み込んだとしても、危険が残ることもあるのです。

 わずかな可能性かもしれませんが、手洗いを信用しすぎるのは危険です。