5月末に、埼玉県、東京都、茨城県、福島県の高齢者施設で、相次いでO157:H7による食中毒が発生しました。
患者は全員回復に向かっているとの事ですが、腎機能の低下から、後遺症が残る場合もあり、食中毒菌がいなくなったからといって安心できません。
今回、発症した患者から検出した菌と、施設に保管されていたサンチュから検出した菌の遺伝子型が一致しました。また、事故のあった施設にサンチュを納品した業者とは、別な経路でサンチュが納品された温泉施設でも、同遺伝子型のO157食中毒が発生しています。このことから、サンチュの製造所がある千葉県は、生産業者に対し出荷自粛を要請したと発表しました。
問題のサンチュについては、生産時に何らかのO157汚染を受けたことが考えられるものの、その後、保健所が実施した拭き取り検査では、いずれの場所からもO157は検出されませんでした。
また、同社が食中毒が発生した事業所に出荷した製品は、同日出荷したサンチュの4%にしか過ぎないことから、出荷時点で汚染されていたとは断定できないと保健所では発表しています。
1996年7月、堺市の学校給食で発生したO157食中毒では、9000人以上が感染し、4名の方が亡くなりました。その中のお一人は、2015年に後遺症により死亡されています。
当時、かいわれ大根が原因としてクローズアップされ、報道などによる二次被害も発生して、大変悲惨な事態になりました。そして、その時も、徹底した拭き取り検査の結果、何処からもO157は検出されず、真相は究明されませんでした。
今回の事故では、発生原因はサンチュと何らかの関わりがあるものと推察されます。しかしながら、O157のように少ない菌数で発症に至る食中毒の場合、その原因を特定することは大変難しいのが現実です。
これより前に発生した惣菜店でのO157アウトブレイクでも、ポテトサラダが疑われましたが、原因にはたどり着くことはできませんでした。
コーデックス委員会から、生野菜や果物を原因とする食中毒アウトブレイク対策として、「生野菜・果物に関する衛生実施規範」が2003年に発表されています。
これを受け、農林水産省では「生野菜を衛生的に保つために〜栽培から出荷までの野菜の衛生管理指針〜」を発行し、注意喚起を行っています。
ですが、その内容はタネや肥料から、出荷・販売まで細かい注意点がびっしり含まれていて、高齢者が多い現場で、どのくらい活用されるか疑問に思ってしまいます。
日本の食品衛生は、色々な不幸な事故が起こるたび、新しい法律が整備され、少しずつ、確実に改善していると思います。
今では、「食品の衛生なんて知ったことじゃない…」などと人の命を軽んじるようなことを大声で言える生産者はいないでしょう。「食中毒で人は死なん…」などと言っていたのはずいぶん昔のお話です。
堺の事件当時、食品衛生監視員をなさっていた方は、「いまも犠牲者のことが忘れられない。あんな悲惨なことはなかった…」とおっしゃっていました。
犠牲を出してからでは遅すぎます。犠牲を出す前に改善できる社会にするため、私たちは今自分にできることから始めていきましょう。
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