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HACCP法案が提出された…今出来る事


 今年、3月通常国会の参議院先議として、食品衛生法の一部を改正する法案が提出されました。その中には、「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化」が明記されています。

 「原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める。ただし、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とする。」とあり、詳しい対象業種については明記されていません。

 

 ここでのHACCPの説明は、「事業者が食中毒菌汚染等の危害要因を把握した上で、原材料の入荷から製品出荷までの全工程の中で、危害要因を除去低減させるために特に重要な工程を管理し、安全性を確保する衛生管理手法。先進国を中心に義務化が進められている。」となっており、A基準やB基準、段階的取り組みについては、省令や政令、都道府県条例で細かく定められるのだと思います。そして、この法律は公布の日から2年を超えない期間で施行されるとのことです。

 

 この法案には、「実態に応じた営業許可業種の見直しや、現行の営業許可業種(政令で定める34業種)以外の事業者の届出制の創設を行う。」と言う内容も含まれており、公布の日から3年を超えない期間で施行するとなっています。HACCPの施行より営業許可の見直しが後とは、まずは今の営業許可業種から始めると言うことでしょうか。

 

 法文の内容としては、「施設内外の清潔保持やネズミや昆虫の駆除などの一般的な衛生管理と、食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組に関することについて、厚生労働省令で基準を定める。」となっています。

 またこの基準に従い、「厚生労働省令で定めるところにより公衆衛生上必要な措置を定め、これを遵守しなければならない。」とあるため、なんらかの法的強制力を持つものになりそうです。

 

 「小規模な営業者その他の政令で定める営業者にあつては、その取り扱う食品の特性に応じた取組」となっているため、小規模事業者も除外しない方向のようで、公衆衛生上必要な措置に関する基準がどのような内容になるのか気になるところです。

 

 先進諸国では独自のHACCPを運用しており、日本から食品を輸出する際には、何度か査察を受け入れなくてはいけない状況です。だからと言って当事国で食中毒を撲滅できていないことを思うと、HACCPは貿易障壁の一つとしての側面もあるのではないかと考えてしまいます。日本でHACCPが義務化されると、査察の必要は無くなるとのことですが、アメリカではさらに進化したHACCPを対象食品に義務化しており、FDAからの査察は義務化以降も必要です。

 

 ところで、今から日本でHACCPを義務化するにあたり、何をポイントとすれば良いのでしょう。

 健康被害で考えるなら、特に必要なのはノロウイルスとカンピロバクター、病原大腸菌などの感染性の高いグループへの対策です。感染は、作業者や環境からの二次汚染と、生や加熱不足の食品が原因となり、少量の菌数で発症します。生食文化を持つ日本では、完全に安全な生食の提供方法などあり得ません。

 

 美味しさと危険、このジレンマをどう乗り越えれば良いか、「公衆衛生上必要な措置」の設定が非常に困難です。

 老舗の和菓子屋や料亭等の職人、魚河岸の目利き仲買人など、経験や勘で品質を守ってきた人たちがいます。彼らにとって、長い修行で勝ち得た能力を、具体的に数値化して基準とするのは難しい事でしょう。

 

 一つポイントになり得るのは、「いつもと違う」を管理することです。

 例えば、いつもは冷蔵庫に入れている食材を常温で出しっ放しにしていた。食品によっては危険な状態になっている場合もあります。その時、それを廃棄するのか冷蔵庫にもう一度入れるのか、判断する基準をはっきりすることです。

 判断に、色々な周囲の事情が入り込まないようにすることが基準の意味であり、これを徹底することが大変困難で重要なことなのです。

 

 今まで大きい事故もなく長く営業を続けてきたのなら、HACCPが義務化されても、現状を大きく変える必要はありません。

 「いつもしていること」をマニュアルにし、

 「してはいけない事」を基準とし、

 「いつもと違うこと」に対する対応の記録をとることで、

 「安全を確保するルール」を決めることができます。

  HACCPの義務化に不安を感じている方は、「いつもと違う」の記録から初めてみられてはいかがでしょうか。

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