「5S」と言う言葉をご存知でしょうか。
ウィキペディアでは、5S(ごエス、ごーエス)とは、製造業・サービス業などの職場環境の維持改善で用いられるスローガンで、各職場において徹底されるべき事項を5つにまとめたものであるとなっています。
整理、整頓、清掃、清潔、躾(しつけ)という、日本で生まれた、みんなで使う場所の管理ルールというものです。
食品を取り扱う施設でも、衛生管理の出発点は5Sからというのが常識になっています。
もちろん、工場内にやたら物が多く、整理整頓されていない状態で、清掃が行き届いていない、清潔ではない状態では、安心安全な食品を製造できるはずはありません。
でも、前職で点検に入らせていただいたほとんどの工場では、整理・整頓はある程度実施されており、清掃状況も良く、清潔な製造環境なのに、保管されている器具や使用中の機械、製造室の壁や扉に欠けや破損が発見されているのです。
点検に入る日が決まっているので、それまでに5Sを実施して、評価を上げようと頑張られるのですが、管理ルールや異常時の対応、改善に対する計画などが決まっていないため、このような状態になってしまうのでしょう。
つまりは、5Sだけでは、クレームに直結する危害は防ぎきれないと言うことになります。
5Sでいう整理とは、いらないものを捨てること。整頓とは、決められた物を決められた場所に置き、いつでも取り出せる状態にしておくことです。
人が集まるところでは、知らず知らずのうちに各自が持ち込んだものが増えてしまいます。しかし、食品製造の場で、このような自由な持ち込みを許可することはできません。
なぜなら、異物混入でクレームが発生した際、それの出所が工場内がどうか、瞬時で確認できなくてはいけないからです。
私物をどんどん持ち込む職場では、確認のしようがありません。
食品製造の場では、製造に必要な物を、適切な品質や材質・強度を確認して、必要最小数量を準備します。また、そのものに最適な置き場を決めて、衛生的に保管する必要があります。これは、使用状況を確認し、記録して、管理状況が適切であることを証明するのに必要なことですし、もし、異常が確認された場合は、すぐに報告し、改善のための対応を取ることに役立ちます。そして、発生した異常が再発しないよう、マニュアルやルールを決め、全員に教育することで、より安心安全な製造へと繋げることができるのです。
ここで、私は「食品営業施設の衛生管理における5T」を提案したいと思います。
「5T」
・定物(ていぶつ):必要な物を決める(適切な品質や材質・強度のものを、必要最小数、会社で決めて準備する)
・定位(ていい):保管場所を決める(品質を保持できる適切な場所と管理方法で運用する)
・チェック:確認し、記録する(品質劣化や使用量との不一致、清掃不良、紛失、破損のないこと)
・対応(たいおう):異常が発生した場合の処置と記録(報告、連絡、改善、メンテナンス計画)
・トレーニング:再発防止に対する取り決めの教育(マニュアル、ルールの周知徹底)
いかがでしょうか。
結局、この考え方は、HACCP構築の前提条件と重なります。
また、定物・定位を(plan,do)、チェックを(check)、対応・トレーニングを(act)と言い換えると、PDCAサイクルを回すことにもなります。
5Sのような感覚的なスローガンは、いざ取り組もうとする時、何から手をつけて良いか分からなくなり、とにかく置き場に看板表示をしようとか、物の形を切り抜いたパットを作ろうとしてしまいます。
でも、真に大切なのは、実際に作業に何が必要か、それが正しく運用され、異物混入や食品の品質劣化につながっていないか、確認し、証明するためのシステムを構築すること。そして、作業者全員が共通の認識を持ってそれを運用することです。
今、混乱した製造環境を改善したいと考えている方。
原材料や器具、備品などについて、「5T」の考え方を取り入れて、現状を整理してみてはいかがでしょうか。
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