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糞口感染防止で最も重要なのは「手」の対策

 従業員に下痢や発熱がある時、または、検便で病原菌陽性の結果が出た時、あなたの会社ではどう対応するルールになっていますか?

 対象となる従業員には出勤を自粛して、病院で食中毒ではないか診察してもらう。検便の再検査で陰性が確認できるまで自宅待機してもらう。と言うのが正解であると思われますが、人手不足で苦労している時に、長く休まれるのはとても痛手ですよね。

 事業所の中には、その時点で症状がない場合は「食品に触れない作業に配置する」としているころもあります。ですが、本当にそれで大丈夫なのでしょうか?

 今回はトイレについてのお話です。

 

 食中毒の中でも、患者数が最も多いノロウイルスや、少量の菌で発症し、重症化しやすいO-157については、感染していても症状が出ない、健康保菌者が感染源になることが知られています。つまり、管理しなければいけないのは、健康保菌者からの糞口感染で、問題になるのはトイレを起点とする病原菌の汚染拡散です。

 

 まずは便のお話です。便に含まれる固形分は、1/3は腸壁が新陳代謝で剥がれ落ちたもの、他の1/3は食物残渣、残りの1/3が微生物だと言われます。腸内細菌の多くは偏性嫌気性菌で、酸素に触れると死んでしまいますが、それでも、便の中には1g中、1千万〜1億ほどの生菌が含まれます。

 誰しも便がでるときは、水分やガスも共に排出されますし、特に男性は肛門付近に毛髪があり、全く肛門辺りを汚さずに排便するのは不可能です。

 現在の家庭では、ほとんどのトイレに洗浄便座が設置されていて、肛門の汚れを水圧で洗い流せます。ですが、それにより、菌を含む水滴が、余計に広い範囲に、お尻のほっぺたや便器に飛び散ることになるのです。

 

 これに気付かず、お尻の穴をペーパーで拭こうとすると、お尻のほっぺたに付着した便を含んだ水滴が、下の写真のように、親指の根元や手首、上着の袖口に付着してしまうのです。このまま、指先をクチュクチュと水で洗って作業に戻ると、洗い残した部分から、食品に糞便汚染が起こり、その中に病原菌が含まれていると、食中毒に繋がる恐れが発生します。

 しかもお尻には、次にお風呂で洗い流すまで、便の影響が残ります。また、汗や下着の摩擦などで、いろいろなところに汚染が広がります。たとえ小便の用でトイレを使用しても、トイレに行くという行為は、毎回、手に深刻な汚染を引き起こすのです。

 

 下の写真は、長野県の保健所が実施した、「トイレを起点とするノロウイルス 汚染拡大の検証 www.pref.nagano.lg.jp/hokuho/syokuhin-anzen/documents/」からの引用です。

 この中で、まとめとして、長野県保健所では次のことを推奨しています。

 

• トイレの外で上着を脱ぎ、長袖の場合は袖口 をまくる。

• トイレ専用の履物に履き替える。

• 手洗いは、石けんを使用し、拇指球周囲及び 手首は特に念入りに行う。

 

 しかし、厳密に言えば、手の構造上、一度ついた菌は手洗いだけで全て洗浄できません。

 食品を扱う前には、遮断性のある衛生手袋を着用した方が安全です。また、衣服の袖は糞口感染に繋がりますので、作業者はアンダーウエアーとして長袖を着用しないことも推奨されます。