チョコレートのクレーム カビ編

 もうすぐバレンタインデー。チョコレートシーズンの到来です。

 私はチョコレート主体の菓子製造業で、10年間品質管理のお仕事をしていました。この時期、チョコレート工場には、多くのクレームが寄せられます。多いのはチョコレートの溶け、その次が歯科治療の際の詰め物など口腔由来の異物、入り数不足のクレームです。

  一方、自主回収情報の集計で、チョコレートの回収理由として特徴的に見られるものが、カビと虫と乳アレルギー表示漏れ。まず今回は、カビクレームについてお話ししましょう。

 

 通常、チョコレートの水分活性は0.2程度と低く、普通の状態ではカビは生えません。

 ですが、バレンタインなどに販売される「ボンボン」と呼ばれるチョコレートは、ガナッシュ(生クリームやナッツプラリネなどを混合したり、果実粉末や洋酒、香辛料などで風味を加えた柔らかいチョコ)をセンターにして、チョコレートでコーティングしています。ガナッシュの種類によって異なりますが、製品の水分活性はガナッシュ由来の水分で、高いものでは0.8〜0.9程度になります。

  ガナッシュに含まれる水分は保存中に蒸散し、ガナッシュとチョコレートコーティングの間の隙間に溜まります。このため、原材料にカビ胞子が多く含まれていた場合や、工程で多くのカビに汚染された場合は、この部分でカビが繁殖しやすくなるのです。

 

 ボンボンのガナッシュには、風味付けにラムやコアントローなどの洋酒が使用されます。実はこのアルコール分により、カビの発生が抑えられているのです。

 チョコレートの本場のヨーロッパ地域では、日本と湿度が異なるためかチョコレートにカビが生えるという事はほとんど無いようです。そのせいか、海外のボンボンには洋酒を配合していないものが多く、日本で販売される際にカビが生えてしまう原因になっています。また、海外から輸入されるチョコレートは、冷凍で輸送されることが多い為、解凍時に表面に発生した結露にカビが発生することもあり、毎年、輸入チョコレートのカビによる自主回収が発生してます。

 

 チョコレートの製造工程には、カビを殺菌できるほどの加熱工程は設定できません。チョコレートの構成成分である、カカオバターとカカオマスの粉末と糖類が、絶妙なバランスで滑らかな混合物になるためには、一度40℃程度に上昇したチョコを、体温より少し低い程度の温度まで混合しながら冷却します。これによりツヤのある口どけの良い(テンパリングの取れた)状態にすることができるのです。

 

 一度固まったチョコレートも、温度が上昇すると溶け始めます。その際融点の低いココアバターがチョコレートの組織から溶け出し、上昇とともに他の成分から分離していきます。

  特にボンボンはガナッシュが温度変化を受けやすいため、よく、「23℃以下で保存してください」と表示されていると思います。25℃以上になると、ココアバターの溶けが始まるため、ボンボンの表面に凹みが出来てしまいます。高級なチョコレート店で、ショーウィンドウの蛍光灯で温められ、表面が凹んでいる製品が平気で売られているのを見かけます。

 お求めになるときは、味や口どけが劣化しているかも知れませんので、凹んでないものを選ぶ方が良いと思われます。

 

 話を元に戻しますが、温度管理の悪いチョコレートの表面に、白いカビが生えたような状態が見られることがあります。これはブルームと呼ばれる現象で、ブルームには二種類の原因があります。

 一つはチョコレートの中の油脂が表面に溶け出して固まった、ファットブルームです。ある程度温度が上昇すると、汗をかいたようにチョコレートの表面にココアバターが分離します。これが冷えて固まると、カビのような白い結晶になるのです。白くなった部分に指を当ててみて、体温で白い結晶が見えなくなる場合はこのファットブルームです。もっと温度が高くなると、油分が流れ出し、縮んだチョコレートの周りで白く固化するので、かなりショッキングな見た目になってしまします。

 

 もう一つのブルームはシュガーブルームてす。冬場、凍えた外部から持ち帰ったチョコレートを暖かい室内に置くと、その激しい温度差でチョコレート表面に結露が発生します。これを繰り返すと結露の中に溶け出したチョコレートの糖分が、乾燥して白い結晶が出来るものです。ブルーム部分に水を垂らすと、透明になるのがこのブルームで、食べた時にザラザラした食感になります。

 

 カビの場合は、拡大して観察すると横に伸びる菌糸が見えます。これは、ブルームにはみられません。

 ブルームは、食べてもお体に問題はありませんが、せっかくのチョコレートですので、保管状態の良い店で購入し、室温で長く置かずに、早めにお食べください。もしあまりに沢山もらって食べきれない場合は、冷凍しておくといつまでも良好に保管できます。

 食べる時は冷蔵庫で1日置いてから、ゆっくり室温に戻してお召し上がりください。