食品の衛生管理においては、清掃や作業者の衛生管理などの適切なルールを決めて、それを皆んなで守ることが大切です。しかし、この「皆んなで守る」と言うのは、それほど簡単なことではありません。
会社のルールは会議の場で承認を得て決めたものです。もちろん、実施困難な内容ではないはずですが、強いられる方としては、今まで慣れ親しんだ自由な振る舞いを改めることに、ある程度抵抗が発生します。
食品製造の場で決めるルールは、消費者に安全で衛生的な食品を提供するために必要な内容です。社長であれ、ちょっと立ち寄るだけの人であれ、誰もが例外なく守らなければいけません。
もし、1人がルールを守らなかった結果、重大な食品事故が発生してしまった場合、その人だけではなく、会社全体の評価が下がってしまうからです。
食品工場で品質管理を担当していた頃、上司から「品管は皆んなに嫌われる存在でないといけない。」と言われました。不衛生な行為を見つけたら、責任者に言って注意させるようにと言うのです。品管によるパトロールは偵察と密告が任務となってしまいました。
しかし、どんなに注意を続けても一向にルールは徹底できません。出社時に手洗いや健康チェックを行わなかったり、作業中に私物の携帯をいじっていたり。注意すると、ちょっと先にやらなきゃいけない事があったから…とか、大切な連絡が入るんで…とか、それなりの言い訳が帰って来ます。何でそこまで言われなきゃいけないのよ!と言わんばかりです。作業者は品管に見つからないようにルールを無視し、責任者は嫌な仕事を増やす品管に文句を言うようになります。
フランス革命の指導者ロベスピエールは、「革命政府の原動力は徳と恐怖である。徳なき恐怖は有害であり、恐怖なき徳は無力である。」と演説し、ギロチンによる恐怖政治を行いました。革命理念を守り理想の社会を築くため、密告と粛清の恐怖で民衆を導こうとしましたが、1年程で自らもギロチンにかけられてしまいました。
人は上からの圧力だけでは統制できません。自分の中で、社会的な徳と、個人的な得がwin-winであることが理解できてこそ、初めてやる気になるのです。
ルールを行う社会的な徳とは、会社の衛生レベルが向上し、消費者や取引先からの高い評価をいただけ、会社の利益に貢献できる事であり、個人的な得とは、会社での評価が上がり、自分のスキルも得られ、万一事故があった時の自らの責任を回避できるという事でしょう。
また、ルールを守るためには、何を守らないといけないのか、基準は何か、基準を外れた時にはどうすれば良いのか、守らないとどんな危害につながるのか…実行する際に迷わないような、分かりやすい取り決めが必要です。上司や品管は自分から率先してルールを守り、それが大切なことだと行動を持って示すと、皆んなも安心してルールを守れるようになります。
どうしたら皆んなでルールを守るとができるのか。
会社規模の大小に関わらず、最も重要で困難な課題です。諦めず繰り返し教育を続け、皆んなで十分話し合い、理解を深めることこそがルールを守る原動力になります。
何が問題で、どうすれば今より良くなれるのか、情報を集め、考えてやってみて、新しい監視方法を見出していく…それが会社のレベル向上や自分のスキルアップに繋がる…それこそ品質管理担当者の徳と得です。
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