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HACCPとの出会い

 私が初めてHACCPに出会ったのは、今から25年ほど前になります。検査会社主催の河端俊治先生のセミナーに参加する機会があり、講義を聞かせていただきました。

 製造する食品特性を考え、全ての製造工程の中で、食品の安全にかかわる危害を特定し、基準を決めて確認し管理するというHACCPに大変感動し、その日、先生が書かれた「HACCP これからの食品工場の自主衛生管理 」の本を購入し、その本は永く私のバイブルになりました。

 

 最初に取り組んだのは、鶏唐揚げの冷凍プリフライでした。

 解凍、味付け、フライ、凍結、袋詰めの工程において、管理ポイントを決め、基準を設定して、一定の品質を保証するシステムを作り、品質の安定化を実現しました。

  各データはロット異常の際、瞬時に取り出せるようにしました。使用原料情報、解凍時の温度、タンブリング温度と時間、加熱前の品温、生菌数、揚げ油のAVチェック、スパイラルフリーザーの室温、凍結後の品温、オートスケールの精度チェック、金属探知機の確認結果、冷凍保管庫の室温等と、サンプル品の調理物性と官能検査などです。これに加えて清掃の実施記録、作業者の手指拭き取り検査結果、ライン拭取り検査結果等も、基準を決めてマニュアル化し、データベース化しました。

 今思うと完全にやりすぎです。しかしながら、当時の私はHACCPバイブルを検証したくて、夢中で取り組んでいたと思います。

 

 その頃、会社では中国産の安い製品に押されて仕事が激減していました。

 しかしそんな中でも「品質で考えると、ここで頼むしかない」と言ってくださる取引先もあり、HACCPの営業的な威力を実感したものです。

 

 HACCPをまだご存じない方にHACCPとは何かについてお話しする際、不注意で転んでしまった時のことを例えにお話ししたりします。

 道を歩いていて、そうそう転ぶものではないですよね。でも絶対転ばないという確証もない。

 漠然と気を付けようと思っても、何を気をつけていいのかわからず、神経質になってがちがちになってしまうかもしれません。

 そんな時、色々な面から転ぶという事故につながる原因を考え、重要な要素を危害として抽出し、それを防止する方法を考えて実行する。重要なポイントは記録を付けて取り組んでみる。たとえば、歩く前に道に障害物などが落下していないか確認をするとか、くつに異常がないか見て確認するとか、歩く前に足を上げて歩くことを意識するなどと…

 

 それ以後あなたが転ばなければ、その対策は有効だったと言えるでしょう。ひょっとしたら、世間ではもっといい方法が発見されているかもしれないので、常に広く情報を得ることも大切です。

 残念なことに、また転んでしまったら、もっと重要な危害が見落とされていたのかもしれません。新たな防止措置を決めて実施することが必要です。

 実施してみて、確認し、またダメなところが見つかったら、もっと良い方法を考えて、効果を検討してやってみる。この繰り返しで、どんどん改善していくことがHACCPの神髄なのです。

 

 手順や原則を使ってシステムを作り上げることがHACCPであると考えてしまうかもしれませんが、もっと重要なのは、検証と改善です。

 また、HACCPシステムを運用すると検査の必要が無いという事も言われますが、机上の制御方法と実際の効果が相関しているとは限りません。

 事前に100%のシステムを作ることは大変困難なことです。実際に運用し、検査で確認して、不適合を一つずつ改善することで、より強固な管理システムが出来上がるのです。

 

 他社の自主回収情報はとても参考になります。他社で起こることは自社でも起こる可能性があると考え、対策を取っておくのも、転ぶのを防ぐことにつながります。

 やりすぎるくらいがちょうど良いのかもしれません。

 だって、転び方によっては深い傷を負うこともありますからね。